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期限のある相続手続きについて

2023-06-26

記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。

皆様は、相続手続きに期限があることをご存じでしょうか。もっとも全ての相続手続きに期限があるわけではありません。ただし、期限の定めがある手続きには、相続人の方にとって直接影響のあるものが多くあります。

初めて「相続」をご経験される方の中には、何から手を付ければ良いのか分からず、期限があることをご存じない方もおられます。

本記事では、期限が定めれている相続手続きを時系列順にご紹介します。

相続手続きの時系列と期限

被相続人(故人)の死亡

死亡届(7日以内)

相続放棄・限定承認の選択(3か月以内)

準確定申告(4か月以内)

相続税の申告と納付(10か月以内)

生命保険金の請求(3年以内)

相続登記の申請(3年以内)※令和6年4月1日以降

死亡届(7日以内)

死亡届とは、ご家族が亡くなった事実を区役所に知らせる手続きのことです。

死亡届は、ご家族が死亡した事実を知った時から7日以内に亡くなった方(又は届出人)の住所又は本籍地の市区町村役場に提出する必要があります。

死亡届には、「死亡診断書(死体検案書)」が必要になりますので、医師に書いてもらうようにしましょう。

期限を過ぎたら5万以下の過料が科される可能性がある

正当な事由なく期限内に、死亡届を提出できなかった場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。ただ、一般的には、ご家族が直接提出することはなく、葬儀や火葬を代行する葬儀会社が火葬許可証の取得の際に、ご家族に代わって死亡届を提出します。

相続放棄・限定承認(3か月以内)

「相続」と聞くと、故人から財産を引き継ぐことをイメージされる方は多いかと思います。ただし、法律上は、故人から財産を引き継ぐ以外にも「相続放棄」と「限定承認」のどちらかを選択することができます。

選択できるのは、「相続の開始を知った日から3か月」

「相続放棄」又は「限定承認」を選択できるのは、「相続の開始を知った日から3か月」です。「相続の開始を知った日とは」、相続人が「故人(被相続人)が死亡した事実」と「自身が相続人になること」を知った日のことです。

一般的には、故人が死亡した事実をご家族(相続人)が知った日から計算します。ただし、例外として、故人が死亡した事実を知った日から3か月以上経過している場合でも期間を繰り延べて計算できるケースもあります。

詳しくは、「3か⽉経過後の相続放棄について」をご覧ください

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人としての地位や権利を相続人自ら手放すための手続きです。

故人が生前に借金をしていた場合は、相続人が返済する義務を引き継ぎます。相続放棄をすることで、始めから相続人ではなくなるので、故人が残した借金を相続人が返済する必要も無くなります。

詳しくは、「相続放棄とは」をご覧ください

限定承認とは

限定承認とは、故人が残したプラスの財産(預貯金・不動産など)の範囲に限定して、マイナスの財産(故人の借金)を相続人が引き継ぐという方法です。

故人が残した財産の内訳を把握することが出来す、マイナス財産の方が大きいのか判断ができない場合は限定承認を選択するケースともいえます。

詳しくは、「相続の⽅法と注意点」をご覧ください

期限を過ぎたら「相続」することになる

相続の開始を知った日から何もせず、3か月を経過すると「相続する」ことになります。

特にご注意頂きたいのが故人が借金をしていることを相続人自身も把握したまま何もせず3か月間放置してしまうと相続人が自動的に借金を負担することになります。

故人が借金をしていた形跡がある場合や故人が借金をしていたことが判明した場合は、期限に間に合うよう相続放棄の申立てを準備をしましょう。

準確定申告(4か月以内)

準確定申告とは、故人の確定申告を相続人が代わりに行うことです。準確定申告は、相続の開始(通常は被相続人が死亡した日)から4か月以内に、故人の住所地を管轄する税務署に申告する必要があります。

例えば、故人に所得(事業所得・不動産所得・給与所得など)があり、所得税の納付が必要な場合は、相続人が代わって税務署に申告しなければなりません。ただし、故人が会社員であった場合や所得が一定以下(年金受給額が400万円以下、その他所得が20万円以下)の場合は、準確定申告の手続きは不要です。

※詳細については、お近くの税務署又は専門家である税理士にご相談ください。

期限を過ぎたら「加算税」や「延滞税」が科される可能性がある。

申告期限を過ぎてしまうと、加算税や延滞税といった税金を追加で徴収される可能性があります。相続が発生した後は、なるべく早めに準確定申告が必要かどうか確認するようにしましょう。

相続税の申告と納付(10か月以内)

相続税の申告や納付は、相続開始を知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内に、故人の住所地を管轄する税務署に申告しなければなりません。

相続税とは、相続人が故人の財産を引き継ぐときに課税される税金になります。もっとも財産を相続したからといって必ず相続税が課税されるとは限りません。

相続税が課税される基準は、基礎控除額(3,000万円+相続人の人数×600万円)を超える場合です。故人の財産が基礎控除を超える場合は、相続税の申告を踏まえてスケジュールを立てる必要があります。

期限を過ぎたら「加算税」や「延滞税」が科されるだけではなく、各種控除や特例(税額の軽減)が受けられなくなる。

期限が過ぎた後に相続税を申告すると加算税や延滞税といった税金が追加で徴収されるだけではなく、「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」などの相続税を減らすための特例を受けられなくなります。

また、申告期限が迫っている時期に専門家である税理士に依頼するとしても通常の報酬とは別に費用が加算されてしまったり、依頼を断られてしまうこともあります。相続税が課税される方は、なるべく早めに税理士に依頼することを検討してみてください。

生命保険金の請求(3年以内)

故人が生命保険に加入していた場合は、保険会社に請求することで保険金を受け取ることができます。ただし、生命保険金の請求にも期限があります。一般的な保険会社では相続の開始から3年、かんぽ生命は5年以内に請求する必要があります。

期限を過ぎたら時効により保険金を受け取れなくなる可能性がある。

期限内に請求できなければ、生命保険金を受け取るための権利が時効により消滅します(保険法第95条)。ただ、実際には期限が経過した後に保険金を請求したとしても保険会社が応じてくれることが多く、事前に保険会社に問い合わせて確認してみましょう。

相続登記の申請(3年以内)

令和6(2024)年4月1日から相続登記の申請に期限が設けられます。相続登記の申請期限は、相続人が故人から相続する不動産があることを知った日から3年以内です。

期限を過ぎたら10万以下の過料が科される可能性がある。

期限内に相続登記を申請できなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、期限内に申請できないことに正当な理由があれば過料は科されません。

また、どうしても期限に間に合わないときは、法務局に「相続人申告登記」を申出(申請)することで、一時的に過料を免れることもできます。

相続登記の申請期限については、以下の記事もご覧ください。

相続手続きにお困りの方は、早めに専門家に相談してください!

相続手続きに困ったり、ご不安な方は、一度専門家に相談することをお勧めします。

始めは、ご自身で手続きしようと思っても実際には集める書類の量が多く、行う手続きが多岐に亘るため途中で挫折してしまう方も少なくありません。

また、本記事でご説明したとおり、相続手続きには期限が定められているものがあり、そのまま放置してしまうと相続人の方にとって直接デメリットに繋がる手続きが多くあります。また、一度期限が過ぎてしまうと専門家に相談しても取り返しがつかないことがあります。

相続手続きに少しでも迷いやご不安がある方は、なるべく早めに司法書士や税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。

まとめ

当事務所では、相続手続きに関するご相談を初回は無料で承っております。

当事務所では、相続手続きを一括してご依頼頂くことや不動産の相続登記、預貯金の解約・払戻などの一部の手続きに限定してご依頼頂くことも可能です。また、ご要望に応じて、税理士などの他の専門家をご紹介させて頂くこともできます。

お気軽にご相談ください。

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山田武史司法書士事務所 
〒107-0062 東京都港区南青山二丁目2番15-1319号
TEL 03-6434-0717 
FAX 03-6434-0727

ある日、突然届く「法務局からのお知らせ」

2023-06-12

記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。

突然ですが、皆さんは、法務局から下記の通知(お知らせ)を受け取ったご経験はあるでしょうか。

【通知書のサンプル】※画像をクリックすると拡大表示されます。

引用元:東京法務局「長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)について

通知書を受け取った方の中には、驚かれたり、詐欺を装った文書だと疑って無視している方もいるのではないでしょうか。

先に結論を申し上げると、この通知書を受け取った方は、土地を相続する相続人です。

本記事では、この通知書が何のために送られてきたのか、受け取った後にどのような対応が必要なのか解説いたします。

何のために送られてくるのか

この通知書は、詐欺を装った怪しい文書ではありません。

この通知書は、相続登記の申請を促すために、法務局から不動産の亡所有者の相続人に対して送られるお知らせ(通知書)になります。

つまり、この通知書を受け取った方は、土地の所有権を相続する相続人であるため相続登記の手続きを行うことになります。

なお、法務局がこの通知書を介して金銭の振込みを依頼したり、要求することは一切ありません。※金銭の振込みや支払いを要求する内容の場合は、詐欺の可能性がありますのでご注意ください。

【法務局は、どうやって相続人を把握したのか】

平成30年に施行された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」により、現在は、所有者が亡くなった後、相続登記を一定期間放置している土地については、法務局が独自に戸籍を調査し、調査により判明した相続人に対して、相続登記を促すための通知書を発送する取り扱いになっています。

通知書を受け取った後に、確認すべきこと

他に相続人がいないか確認する

通知書を受け取った方は、まず、ご自身以外にも相続人がいないか確認します。

法務局が調査した結果、土地を相続する相続人が複数名いることが判明した場合は、任意で選択した相続人1名に通知書が送られます。したがって、通知書を受け取った方以外にも相続人がいないか確認します。

「法定相続人情報」を取得する

他に相続人がいないか確認するために、「法定相続人情報」を取得します。

法定相続人情報とは、法務局が相続人を調査した結果をまとめた家系図のようなものです。なお、法定相続人情報の取得には、通知書に記載されている「法定相続人情報の作成番号」が必要になります。通知書は、破棄せずに保管してください。

法定相続人情報の取得方法は、以下のとおりです。

【法定相続人情報の取得方法】

①請求先:全国の法務局(最寄りの法務局窓口で取得できます。

②必要書類 

  • 所定の依頼書【Word形式】/【PDF形式
    引用元:法務省ウェブサイト
  • 相続人の本人確認書類(例 運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 委任状(相続人に代わって代理人が請求する場合)
  • 代理人の本人確認書類

③請求方法:法務局の窓口又は郵送も可

④取得手数料は無料

土地の登記簿謄本を取得する

相続人の確認と併せて、相続登記の対象となる土地の登記簿謄本を取得します。

取得対象の土地は、通知書の「不動産番号及び不動産所在事項」欄に記載されています。

※土地の登記簿謄本は、土地の所在地に関わらず、最寄りの法務局で取得できます。

土地の登記簿謄本には、以下の記載がされています。

記載例①相続人全員の特定が完了している場合

記載例②相続人の一部が判明しない場合

引用元:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法等の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(平成30年11月15日付け法務省民二第612号民事局長通達) (PDF形式 : 104KB)

確認した後に、相続人が行う手続き

相続登記を申請する

土地を相続する相続人と相続登記の対象になる土地を確認した後は、相続登記を申請することになります。

相続登記の大まかな流れは以下のとおりです。

法務局で「法定相続人情報」と「土地の登記簿謄本」を取得する

相続人全員と連絡を取り、不動産を相続する人を決める

必要書類を用意する

※相続人等の戸籍謄本を集める必要はありません。

相続登記を申請する

詳しくは、「不動産の名義変更(相続登記)」をご覧ください。

※ご自身で手続きすることが難しいと感じた方は、当事務所又はお近くの司法書士事務所にご相談ください。

相続登記以外の方法

相続登記を申請する以外の方法としては、「相続放棄」をすることも検討します。

相続放棄とは、相続人としての権利や地位を手放すための手続きのことです。

相続放棄をすることで、土地を相続することも無くなるので相続登記の申請に関わる必要がなくなります。ただし、相続放棄には3か月という期限や要件がありますので、司法書士などの専門家に一度相談することをお勧めします。

詳しくは、「相続放棄とは」をご覧ください。

既に「相続放棄をされている方」

既に相続放棄している方でも通知書が届いたり、法務局が作成した法定相続人情報に記載されることになります。

というのも既に相続放棄をしていたとしても法務局がその事実を把握することはできません。したがって、既に相続放棄している方は、法務局に連絡してその旨を伝えるようにしましょう。

通知書を受け取った方に、知って頂きたいこと

「通知書」を受け取ったとしても相続登記の申請が強制されるわけではありません。また、現時点(令和5年6月時点)では、何もせず放置していたとしても罰則はありません。

ただし、令和6年4月1日からは「相続登記が義務」になり、義務化された後も同様に通知書が届くことになります。ただし、義務化された後の通知の意味は、少し異なります。

つまり、義務になるということは、その義務を怠り放置してしまうと罰則があるということです。具体的には、通知を受け取った後に、一定期間放置してしまうと10万円以下の過料が科されることになります。

この通知書を受け取った方は、今の内から相続登記を終わらせることを強くお勧めします。

当事務所が相続登記の手続きを一括してサポートします。

当事務所では、相続登記に関するご相談・ご依頼を承っております。

当事務所は、相続登記のオンライン申請(電子申請)に対応しております。

相続した不動産が遠方にある場合や地方にお住いの方でも電話やZOOMなどを利用してお打ち合わせさせて頂き、相続登記の手続きを当事務所が代行して手続きいたします。

最近では、相続登記の義務化に備えて、相続登記を完了させたいとお客様からご相談やご依頼を頂く機会が増えてきております。

あなた自身が通知書を受け取られて、相続登記の手続きに不安を感じるときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

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相続登記が放置される理由と対策

2023-05-31

記事をご覧いただき、ありがとうございます。司法書士の山田武史です。

前回から引続き、相続登記の義務化に関連する記事になります。

以前の記事では、相続登記が義務化される前に知っておきたいポイントや今の内から確認することをご紹介しました。

今回は、現在不動産を所有されている方に向けて、相続登記の義務化に備えた対策方法をご紹介します。

相続登記の放置には理由がある

そもそも相続人が相続登記を放置する理由は何でしょうか?

「相続」という手続きに関わったご経験のある方や不動産を相続した方であれば、何となく想像ができるかもしれません。

対策方法を検討する前に、相続登記が放置されてしまう理由を今一度確認してみましょう。

相続人が相続登記をしない、できない理由

不動産を相続しても相続人が利用する予定がない

相続人の中には、自宅を所有されている方も多く、また、離れて生活している家族にとっては、地方や遠方にある実家を相続しても利用する予定がないため、不動産を相続しても管理や処分することが負担になり、相続登記せずに放置してしまうことがあります。

利用や処分ができない不動産に費用や手間を掛けたくない

実際のところ相続した不動産が経済的な価値が高い場合や市場からみて需要のある不動産であれば、売却することができるため最終的には相続登記がされます。

ただし、相続する不動産の中には、利用する予定もなく売却を含めた処分ができない不動産も存在します。そういった不動産を相続するとしても費用や手間をかけてまで相続登記しようと思う方は多くありません。

相続する不動産を把握してなかった

相続人が相続する不動産を把握できないことがあります。先祖代々引き継いできた地方にある土地などは、ご家族が調査しても判明しないことがあります。

また、亡くなったご本人も把握していない不動産が存在することがあります。例えば、故人が遺言書を書いていたところ、意図せず一部の不動産について記載漏れがあることも珍しくありません。

故人や相続人が把握していない不動産は、その不動産の名義人が何世代も前の方であることが多く、相続登記しようにも戸籍の収集に手間や費用が掛かってしまい、そのまま放置してしまうことがあります。

相続人同士の話し合いがまとまらない

相続登記できない代表的な例として、相続人同士の話し合いがまとまらず不動産を相続する人を決められないまま、相続登記が放置されてしまうことです。話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所を介した遺産分割調停や審判により、不動産を相続する人を決めることもできます。ただし、解決するまでに時間や費用もかかるため、そこまでして相続登記しようと思わない方もいます。

一部の相続人と連絡が取れず、手続きができない

相続人の人数に関わらず、一部の相続人と連絡が取れないことがあります。不思議に思われる方もいますが、実際にそういった事例はあります。例えば、一部の相続人の連絡先が分からず、戸籍や住民票を取得しても実際には、その住所地に居住していないなど、現在のお住いや所在が判明しないケースです。

そういった場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任してもらい、所在が分からない相続人に代わって、遺産分割などの相続手続きや相続登記の申請人として関与してもらうことになります。

ただ、不在者財産管理人の選任には時間と費用が掛かるため、裁判所の手続きを含めて手続きをせずに放置されてしまうことがあります。

今後は、どういった対策が必要になるのか

ここからは、不動産を所有されている人や将来不動産を相続する人に向けて、相続登記を円滑に進める方法や相続登記が放置されないための対策方法をご紹介します。

対策方法①ご家族で話し合って対策する機会を設ける

相続登記が放置される理由の大部分は、相続人が不動産を相続しても利用する予定がなく、管理や処分に困るためです。

そういったことを理由に相続登記を放置されないために、将来不動産を相続する家族がどういった考えを持っているのか、今の内から家族間で話し合うことが大切です。

また、相続の話題を親である本人に話しづらい場合は、「相続登記の義務化」や「所有者不明土地問題」など、世間の話題をきっかけに対策することについて、親がどんな考えを持っているのか聞いてみるのも良いでしょう。また、当事務所を含めた専門士業のホームページやコラムなどを紹介してみることもお勧めです。

対策方法②相続登記を円滑に進めるために、「遺言書」を作成する

相続登記を含めた相続手続きを進めるうえで、もっとも問題になりやすいのが遺産分割協議です。遺産分割協議とは、遺産の分け方について相続人全員で話し合うことです。

遺産分割協議が複雑化して時間が掛かるケースは以下のとおりです。

遺産分割協議が複雑化して時間が掛かるケース
  • 遺産の分け方について相続人同士の意見がまとまらない
  • 相続人の中に認知症を発症もしくは、判断能力に疑いのある方がいる
  • 一部の相続人と連絡が取れず、所在も分からない

上記のいずれかに該当する場合は、家庭裁判所を介した手続きが必要になり、当事者である相続人が想定しているよりも手続きに手間や費用、時間がかかります。

遺言書を作成して、あらかじめ財産の承継先を指定することで、相続人同士で遺産分割協議を行う必要がなくなり、相続登記を含めた相続手続きを円滑に進めることができます。

現代の相続トラブルは、相続人同士の争いだけではなく、高齢化社会における特有の問題が存在します。遺言書を作成することは、相続登記を円滑に進められるだけではなく、相続トラブルを予防する方法として非常に効果的です。

相続登記の義務化に備えるためにも遺言書を作成することをお勧めします。

対策方法③あらかじめ不動産を売却して現金化する

相続登記の義務化に備える対策として、最もシンプルな対策方法は、将来相続人が取得(相続)する財産に不動産がないことです。相続する不動産が無ければ相続登記も必要ありません。

また、相続人が複数人になる場合は、不動産そのものを共同で相続するよりも現金で分け合った方が相続人同士のトラブル予防になります。不動産を共同で所有することは、リスクになることが多く、相続する不動産に相続人が居住もしくは利用する予定もなければ、現金を相続する方が相続人にとっても適切なことがあります。

現在、複数の不動産を所有されている方は、今の内からご家族で話し合っていただき、不動産を処分・整理することも方法の一つとして検討してみてください。

対策方法④売却が難しい不動産は専門業者に有料で引き取ってもらう

不動産を売却するにしても買い手を見つける必要があります。

もっとも、最近では不要な土地・建物を有料で引き取るサービスを行っている専門の不動産会社があります。これは、売却とは異なり、不動産の所有者が不動産会社に費用を支払って土地や建物を引き取ってもらう方法です。

一般の取引では売却できない不動産を処分する方法の一つとして検討してみてください。

ただし、有料の引き取りサービスを行っている不動産会社の中には、詐欺をはたらく会社もあります。不動産を引き取ってもらう際は、支払う費用の妥当性や支払うタイミング、不動産の名義変更の有無や引き取った後に不動産会社がどういった目的で不動産を利用するのか確認することが重要になります。

対策方法⑤相続した不要な土地を有料で国に引き取ってもらう

以前の記事でもご紹介しましたが、相続した不要な土地を有料で国に引き取ってもらうこともできます。これを「相続土地国庫帰属制度」といいます。現在、所有されている不動産の中に、先代から相続した土地があり、処分に困っている場合は対策方法の一つとして検討する余地はあります。

ただし、あくまでも私見ですが、引き取ってもらうための要件は厳しく、ある程度の費用もかかるため、利用する場合は、お近くの法務局(本局)や司法書士などの専門家に一度は相談することをお勧めします。

参考記事「相続土地国庫帰属制度とは

今後は、何もしないことが一番のリスクになる

これまでは、相続登記を放置しても義務や罰則はなかったため、そのまま放置しても直ぐに問題にならなかったかもしれません。ただし、今後は相続登記が義務化されて期限や罰則が設けられます。

「相続人申告登記制度」を利用することで、一時的に義務を果たして罰則を免れることはできますが、最終的には「本来の相続登記」を申請する必要があります。

また、「相続」という手続きは、どこかの段階(世代)で解決しなければ、更に複雑になる性質があります。複雑になるほど、相続人自身で解決できないだけでなく、専門家に依頼するとしても難易度が高くなるため費用も比例して高額になることがあります。

ご自身の後に続く世代のためにも今の内から手続きを終わらせるようにしましょう。

相談先を迷っている方は、司法書士に相談してください!

現在、相続登記を放置されている方で、ご自身で手続きすることが「難しいなぁ…」、「無理そうだなぁ…」と思われた方、相続登記の義務化に備えた対策方法をご検討中の方は、司法書士にご相談ください。

当事務所でも相続登記をはじめ事前の対策としての遺言書の作成や家族信託(民事信託)などのご相談やご依頼を承っております。

お気軽にご相談ください。

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相続登記の義務化に備えて確認すること

2023-05-25

記事をご覧いただき、ありがとうございます。司法書士の山田武史です。

前回の記事では、相続登記の義務化と知っておきたいポイントを解説しました。

前回の記事】のおさらい

  • 令和6年4月1日からは相続登記の申請が義務になる
  • 不動産を相続することを知った日から3年以内に相続登記する
  • 相続登記を放置すると10万以下の過料が科される可能性がある
  • 期限に間に合わない場合は、「相続人申告登記制度」を利用する

前回の記事は、こちらをご覧ください。

既に不動産を相続した方でも相続登記していなければ、令和6年4月1日以降は申請することが義務になります。

今回は、ご自身だけではなく、ご家族が不動産を相続された方に向けて、今の時点で相続登記されているか確認する方法をご紹介します。

相続登記されているか確認する方法

不動産の登記簿謄本を取得する

相続登記されているか確認するための確実な方法は、「相続した不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)」を取得することです。

登記簿謄本に相続人の住所・氏名が記載されていれば相続登記されています。反対に、登記簿謄本の所有者欄の最後に、亡くなった方の住所・氏名が記載されている、もしくは、亡くなった方しか記載されていない場合は、相続登記されていない可能性があります。

不動産の登記簿謄本は、調べたい土地の所在や地番、建物の家屋番号が判明していれば、全国のどこの法務局でも取得できます。

「登記識別情報通知」又は「登記済権利証」を確認することもお勧めです。

登記簿謄本を確認する以外にも不動産の「登記識別情報通知」又は「登記済権利証」の記載を確認してみてください。

相続登記している場合は、不動産を相続した相続人宛にどちらかの証明書が法務局から発行されています。なぜ、2種類あるのかですが、相続登記した年代によって法務局から発行される証明書が異なるからです。

どちらかの証明書に亡くなった人の住所・氏名が記載されていると、相続登記されていない可能性があります。その証明書に記載されている土地・建物の登記簿謄本を取得して、不動産の所有者が亡くなった人の名義になっていないか確認してみてください。

「登記識別情報通知の下部に貼られているシールは剥がさないでください!」

登記識別情報通知の下部に貼られているシールを剥がすとパスワードが記載されています。そのパスワードを第三者に見られてしまうと勝手に不動産の名義を移されてしまう恐れがあります。

不動産の登記簿謄本を取得するときに、そのパスワードを使用することはありません。

不動産を処分する時以外は、パスワードは使用しませんので剥がさず保管してください。

相続した不動産が分からないとき

相続した土地の所在や地番、建物の家屋番号が分からなければ、不動産の登記簿謄本を取得することもできません。

以下は、相続した不動産を特定する方法です。

相続した当時の資料を確認してみる

相続手続きに使用した遺産分割協議書や税務署に相続税の申告をしたときの資料などを確認してみてください。それらの資料に記載されている土地の所在や地番、家屋番号を確認して不動産の登記簿謄本を取得してみてください。

稀に、遺産分割協議に記載されている不動産であっても相続登記されていないことがあります。

固定資産税の「納税通知書」を確認する

相続した土地の所在や地番、建物の家屋番号を調べる方法として、「納税通知書」を確認することもお勧めです。

不動産を所有されている方には、毎年4月から6月頃に固定資産税の「納税通知書」が送られてきます。納税通知書に記載されている土地の所在、地番、建物の家屋番号を確認して不動産の登記簿謄本を取得してみてください。

注意点①相続登記していない場合でも納税通知書は届きます

固定資産税は、相続登記していない場合でも課税されます。したがって、納税通知書に記載があるからといって相続登記されているとは限りません。なお、相続登記されていない不動産の場合は、役所としても誰が不動産を相続したか把握できないため、複数の相続人がいる場合は任意で選択した相続人宛に納税通知書が送られます。

注意点②固定資産税が課税されない不動産もあります

亡くなった人が所有していた不動産でも課税標準額が一定額に満たない土地、建物やそもそも非課税の私道(道路)などは、固定資産税が課税されないため納税通知書に記載がなかったり、納税通知書自体が送られてきません。したがって、相続登記したと思っても申請が漏れていることがあります。

【固定資産税が課税されない不動産】

  • 土地の課税評価額が30万円未満
  • 建物の課税標準額が20万円未満
  • 「私道(道路)」として利用されている土地

課税されていない不動産は「名寄帳」を取得して確認する

名寄帳とは、各自治体ごとに個人が所有している不動産を一覧にまとめた帳簿のようなものです。

名寄帳には、固定資産税が課税されていない土地や建物、非課税の土地なども記載されます。(※自治体ごとに取扱いが異なることもあります。)

もっとも、名寄帳で判明するのは、その市区町村内で管理している不動産のみです。全国の市区町村に対して名寄帳を請求することはできますが、却って手間と費用がかかるため地域を絞って請求することをお勧めします。

相続登記されていない不動産が見つかったとき

相続登記されていない不動産が見つかったときは、以下のいずれかの方法により相続登記を行います。

相続登記されていない不動産が見つかった経緯

遺産分割協議書に記載された不動産

遺産分割協議書に記載されている不動産でも相続登記されていないことがあります。

その場合は、遺産分割協議書に記載されているとおりに相続登記を申請します。相続登記に必要な書類として、相続した当時に使用した「遺産分割協議書」、「相続人の印鑑証明書」、「戸籍謄本等」を使用できます

ただし、「評価証明書」は、相続登記を申請する年の評価証明書を取得する必要があります。例えば、平成30年に相続した時に作成した遺産分割協議書を使用して、令和5年に相続登記を申請するのであれば、令和5年度の評価証明書が必要になります。

なお、遺産分割協議書以外の書類が紛失している場合は、再度収集する必要があります。

遺言書に記載された不動産

遺言書により不動産を相続する人が指定されている場合でも相続登記されていないことがあります。その場合は、遺言書で指定された人の名義にするための相続登記を申請します。

相続登記を申請するときに添付する書類については、遺産分割協議書と同様に当時の遺言書や戸籍謄本などを使用できます。なお、評価証明書についても同様に相続登記を申請する年度の評価証明書を取得する必要があります。

遺産分割協議書や遺言書に記載されていない不動産

遺産分割協議書や遺言書に記載されていない不動産が見つかり、相続登記されていない場合は、相続人同士で話し合って不動産を相続する人を決めて頂くか、相続人全員の名義で登記する方法があります。

もっとも遺産分割協議書や遺言書に、下記のような記載がされている場合があります。

遺産分割協議書の記載例

  • 「本協議書に記載がされていない財産については、相続人Yが取得する。」

【遺言書の記載例】

  • 「本遺言書に記載した財産以外の遺言者の財産は、相続人Xに全てを相続させる。」

上記のような記載があれば、その指定どおりに遺産分割協議書や遺言書を使用して相続登記を申請することができます。

詳細は、「不動産の名義変更(相続登記)」をご覧ください。

相続登記を放置すると、どうなるのか

「相続登記されていない不動産が見つかった場合は、速やかに相続登記をしましょう!」とは、いってもどうしても面倒だからといって放置してしまう方はいます。

相続登記を放置することで得られる唯一のメリットは、登録免許税などの費用が掛からないことです。ただし、今後は相続登記を放置すると登録免許税以外にも10万円の過料が科されてしまいます。

その他にも相続登記を放置することのリスクは数多くあります。

主なリスクを以下にまとめましたのでご覧ください。

相続登記を放置するリスク

相続登記の有無に関係なく所有者としての管理責任は負う

相続人は、相続登記の有無に関係なく、不動産の所有者として管理責任を負います。

先程、述べたとおり相続登記の有無に関係なく固定資産税は課税されます。

その他にも相続人は相続した不動産の管理責任(民法第918条)や工作物責任(民法第717条)を負うことになります。

例えば、相続した建物が倒壊したり、放火されて隣家に被害が及んだ場合は、賠償責任を負うことになります。もっとも相続登記していなければ、対外的には誰が不動産を相続したか判明しないため相続人全員が責任を問われかねません。

つまり、第三者だけではなく不動産を相続しない、もしくは相続する意思のない相続人との間で責任の所在についてトラブルになることがあります。

相続登記を放置することで、より一層手間や費用がかかる

相続登記を放置している間に、当初の相続人が亡くなってしまうことがあります。

相続人が亡くなることで不動産の権利が次世代の相続人に移るため相続登記に関わる人や収集する書類の数も増えていき、当初は面倒に思っていた相続登記がより一層複雑になり、手間や費用もその分掛かってしまいます。

相続した不動産を売却したいと思ってもできない

相続した不動産をいざ売却したいと思っても相続登記しなければ売却することはできません。

不動産の名義が亡くなった人のままでは、不動産の所有者が明らかにならず、不動産を購入したい人にとっても「誰と売買契約を結べば良いのか」、「誰に代金を支払えば良いのか」が分かりません。

もっとも不動産を売却するには、不動産を相続した相続人全員の同意が必要になります。相続登記を放置している間に相続人が亡くなり相続人の数が増えることで、売却手続きに関与する人も増えます。

関わる人が多ければ、その分権利関係や利害関係が複雑になり、不動産を売却するまでに時間が掛かったり、売却すること自体ができないケースも少なくありません。

第三者に不動産の権利を取得される危険性がある

不動産を相続した多くの方は、相続登記せずとも自身が所有者であるから問題ないと思われている方がいます。ただ、不動産の権利は登記した人の早い者勝ちの性質があります。

というのも相続人同士が話し合って、特定の相続人が不動産を相続することはできます。ただし、その相続人が単独で不動産を相続したことを主張するには相続登記しなければなりません(民法第899条の2)。

相続登記しない間に、他の相続人が自身の名義で勝手に相続登記を行ったり、不動産の権利(持分)を第三者に売却することも手続き上は可能です。また、他の相続人に対する債権者等は、不動産の権利を差し押さえれることもできます。

一度不動産を売却されたり差し押さえられたりすると、もはや自身が不動産を単独で取得したことを主張できなくなります。

これらのリスクを次世代の家族が負担することになる

一番気を付けて頂きたいのが、こういったリスクが有るにも関わらず、ご自身の代で解決せずにいると、今度は次世代の相続人であるお子さんや他の親族に負担が引き継がれることです。

今は問題ないと思われたり、やっぱり面倒だからといって相続登記を放置してしまうと、次はご自身のお子さんやお孫さんが同じようなリスクを背負うだけではなく、更に複雑化して解決できない問題に発展することもあります。

不動産を相続された方や相続登記されていない不動産が見つかった場合には、速やかに相続登記をしましょう。

まとめ

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

相続登記を放置されている方は早めに相続登記を完了させることをお勧めします。

「相続登記を放置している」「相続登記されているか確認したい」、そのような方は、ぜひ一度当事務所にお問合せください。

お問い合わせは※こちら

次回の記事では、ご自身やご家族が不動産を所有されている方に向けて、相続登記が義務化されても慌てないために、今の内からできることや対策方法についてご紹介しようと思います。

山田武史司法書士事務所 
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相続登記が義務になる?相続登記の義務化と知っておきたいポイント

2023-05-18

記事をご覧いただき、ありがとうございます。司法書士の山田武史です。

令和6(2024)年4月1日から相続登記が義務になります。

法改正された令和3年当時、司法書士界隈では話題になりましたが、一般の方には、あまり知られていないようです。

令和4年7月に、法務省が相続登記の義務化について、20代以上の成人男女1200人を対象に認知度を調査したところ、「よく知らない」、「全く知らない」と答えた人は、全体の約 66 %という結果が出ています。

引用元:法務省民事局「相続登記の義務化・遺産分割等に関する認知度等調査

たしかに、「相続登記が義務?」と聞いたところで、ご自身にどういった影響があるのか実感が沸かない方が多いかと思います。

この記事では、令和6年4月1日から開始する相続登記の義務化と知っておきたいポイントをご紹介します。

そもそもの相続登記とは、何ですか?

まず、相続登記が、どんな手続きであるのか簡単にご説明します。

土地、建物、マンションなどを含めた不動産の所有者は、法務局で管理する不動産の登記簿で管理されています。

不動産の登記簿とは、不動産を所有している人の住所・氏名、土地の所在(場所)、地目(種類)、地積(大きさ)、建物であれば構造など、権利関係や物件の状況などが記録された帳簿のようなものです。

相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった後に、その不動産の登記簿に記載されている所有者を亡くなった人から相続人等に変更するための手続きのことです。

相続登記を申請して、所有者(相続人等)を確定させなければ、相続した不動産を売却することもできません。

詳しくは、「不動産の名義変更(相続登記)」をご覧ください。

相続登記の義務化と知っておきたいポイント

POINT①いつから義務になるのか

令和6(2024)年4月1日から相続登記の申請が義務になります。

令和6年4月1日以降は、不動産を相続した相続人は相続登記を申請しなければなりません。

令和6年4月1日以前に、相続した不動産の相続登記も対象になります。

過去に相続した不動産でも相続登記を申請していない場合は、令和6年4月1日以降は相続登記を申請する必要があります。つまり、不動産を相続した時期に関係なく相続登記を申請することが義務になります。

なお、遺言書により相続人以外の人が不動産を譲り受ける場合には、相続登記の義務化の対象になりません。

POINT②相続登記の申請に期限が設けられた

相続又は遺言書によって不動産(土地、建物など)を取得した相続人は、その事実を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。

具体的には、相続人が以下の2点を知った時から3年以内です。

  • 所有者が死亡した事実
  • 不動産の所有権を取得(相続)する事実
    (例 遺産分割協議や遺言書により不動産を相続したなど)

相続人が被相続人(故人)が死亡した事実を知っただけでは、3年の期限は開始しません。

相続人が相続する不動産(故人所有の不動産)があることを知った時から3年の期限が開始します。

令和6年4月1日以前に相続した不動産は、相続人が「不動産を取得(相続)することを知った日」又は「令和6年4月1日」のいずれか遅い日から計算して3年以内に相続登記を申請する必要があります。

例えば、令和2年4月に親が亡くなっており、その当時は亡親から相続する不動産の存在を知らず、令和6年9月1日に、亡親から相続する不動産があることを相続人が知った場合は、その時から3年以内に相続登記を申請すれば良いことになります。

一方、令和6年4月1日以前から相続した不動産があることを知っており、相続登記を放置していた場合は、令和6年4月1日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。

POINT③相続登記を放置したときの罰則

正当な理由がなく3年以内に相続登記を申請せず、放置してしまうと10万円以下の過料の対象になります。過料とは、行政上の義務違反者に対して、金銭の支払いを課す行政罰のことです。

なお、相続登記が申請できないことに正当な理由があれば、過料が科されることはありません。

正当な理由の具体例

  • 相続人が極めて多く、戸籍収集や相続人全員を把握することに時間を要する
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等に争いがある
  • 相続人自身が重病等の事情がある など

※正当な理由については、あらかじめ通達等で明確化される予定です。

POINT④期限に間に合わないときの対応方法

相続登記とはいっても戸籍収集や遺産分割協議など、ケースによっては相続人にとって手間や負担が大きいため期限内に申請できないことがあります。

そこで、新たに「相続人申告登記制度」が設けられました。

「相続人申告登記制度」とは

相続人申告登記とは、「不動産の所有者が亡くなったこと」及び「自身が相続人であることを相続人が法務局に申し出る制度です。

相続人申告登記をすることで、一時的に相続登記の義務を果たしたとみなして罰則を免れることができます

ただし、相続人申告登記は、以下の点にご注意ください。

相続人申告登記の注意点

注意点①義務を免れるのは、申出をした相続人のみ

相続人申告登記は、複数の相続人がいる場合でも各相続人が単独で申出することができます。

ただし、相続人申告登記により義務を果たしたことになるのは申出した相続人のみです。申出をしなかった他の相続人は義務を果たしたことになりません。

例えば、A、Bの相続人2名のうち、Bのみが相続人申告登記を申出した場合は、Bは義務を果たせますが、Aに義務は残ります。

複数の相続人がいる場合は、各相続人が個別に申出するか、相続人代表者1人が相続人全員を代理して申出することで相続人全員が義務を果たすことができます。

注意点②相続人申告登記は、本来の相続登記ではありません

相続人申告登記は、不動産の所有者が亡くなったこと、そして、申出人が相続人であることを法務局に知らせることに留まり、本来の相続登記のように不動産の所有権が相続人に移転したことを確定させる手続きではありません。

つまりは、相続人申告登記をした後も法定相続分又は遺産分割協議により、不動産を相続する人を確定して、改めて相続登記を申請する必要があります。

注意点③申告登記後に遺産分割協議をしたら3年以内に相続登記をする

上述したとおり、相続人申告登記の申出をした後も本来の相続登記を申請する必要があります。もっとも、相続人申告登記をした後に相続人間で遺産分割協議がまとまった場合は、協議が成立した日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。

この期限内に申請できなければ、10万円以下の過料の対象になります。

相続人申告登記をした後も遺産分割協議により不動産を相続する人を決めた場合は、再度義務が発生しますので、ご注意ください。

なぜ、相続登記が義務化されたのか

これまでは、相続登記を申請するかは任意でしたので、相続登記を放置したとしても罰則などはありませんでした。また、相続人も相続した不動産を売却する時を除いて、相続登記をするメリットを感じず、放置してしまうことがありました。

ただ、近年問題になっているのが、誰が所有者であるか判明しない「所有者不明土地」が増加していることです。

「所有者不明土地」とは?

所有者不明土地」とは、土地を所有している人が誰であるか判明しないだけではなく、判明したとしても所在が把握できず、所有者と連絡が取れない土地のことをいいます。

先程、ご説明したとおり、土地などの不動産の所有者は「不動産の登記簿」で確認できますが、必ずしも現在の所有者が記載されているとは限りません。

これは、相続登記が任意であったため、登記簿に記載されている所有者が実際に生存又は死亡しているのか分からず、所有者が亡くなっていたとしても相続人全員を特定できなかったり、一部の相続人の所在や連絡先が分からず、所有者(相続人)全員を特定できないことがあります。

所有者不明土地は、その土地自体の管理や処分ができないだけでなく、公共事業や都市開発を進める際に、近隣土地の所有者が特定できないため、計画が進まないなど社会問題になりました。

所有者不明土地の多くは、何世代にも亘って相続人が亡くなっていることがあります。

相続人が亡くなると、それに比例して土地の権利(所有権)が次世代の相続人に分散するため、戸籍収集を含めて、土地の所有者(相続人)全員を特定することが困難なケースがあります。

また、一部の相続人の連絡先や所在が判明しなかったり、連絡が取れたとしても土地の管理や処分をする際に相続人全員から協力が得られずに、そのまま放置されてしまうことがあります。

そこで、所有者不明土地問題を未然に予防及び解消することを目的として、令和3年の法改正に伴い相続登記が義務化されることになりました。

まとめ

相続登記の義務化まで、残り1年を切りました。現時点で相続登記していない方も義務化された後は対象になり、期限内に申請できなければ罰則が課される可能性があります。

ただ、長い間放置された相続登記は、通常よりも手続きに手間と時間がかかります。義務化されてから慌てないよう、今の内からなるべく早めに手続きすることが大切です。

ご自身で相続登記することに、ご不安な方は、お早めに司法書士にご相談ください。

次回は、相続登記の義務化に備えて、今の内から確認しておくことや対策方法について、ご紹介したいと思います。

お問い合わせは※こちらまで。

山田武史司法書士事務所 〒107-0062 東京都港区南青山二丁目2番15-1319号
TEL: 03-6434-0717 FAX: 03-6434-0727

相続土地国庫帰属制度とは

2023-05-08

記事をご覧いただき、有難うございます。司法書士山田武史です。

本日は、令和5(2023)年4月27日から始まった新制度である「相続土地国庫帰属制度」について、お話しようと思います。

亡くなったご家族から相続された財産の中には、相続人自身で利用する予定がなく、出来れば手放したい土地であったり、売ることが難しい土地を相続されて管理や処分に困っていることは少なくありません。

新たに新設された相続土地国庫帰属制度を利用することにより、相続した土地の中から手放したい土地を選択して国に引き取ってもらうことが可能になります。

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度ですが、その名とおり相続した土地を国に帰属させる制度のことです。言い換えると相続した土地を国に引き取ってもらう手続きになります。

具体的には、土地の所有者が管轄の法務局に申請を行い、承認されると土地の管理費用に相当する負担金を納めることで土地の所有権と管理責任を国に引き受けてもらうことができます。

以下からは、相続土地国庫帰属制度を利用する際のポイントをご紹介します。

POINT①制度を利用できる人とは

本制度を利用できる人は、相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人です。

つまりは、相続以外の売買や贈与により土地の所有権を取得した人は、基本的には本制度を利用することができません。

ただし、一部の共有者が売買等により土地を取得していたとしても他の共有者が相続により土地の所有権を取得している場合は、共有者全員で申請することで本制度を利用できます。

POINT②引き取ってもらえる土地とは

制度を利用できる土地とは?

  • 山林、原野、農地を含めた土地が対象になります。
    当然ながら建物は制度の対象になりません。
  • 施行前(令和5年4月27日前)に相続した土地も対象になります。

制度を利用できる土地には条件がある

制度を利用できる土地には、以下に記載する10個のうちいずれにも該当しないことが必要になります。1つでも該当する場合は、相続土地国庫帰属制度を利用できないため要件を満たすために事前の準備が必要になります。

  • ①建物の存する土地×
    ⇒土地の上に建物がある場合は解体して更地にする必要があります。
  • ②担保権等が設定されている土地×
    ⇒抵当権や賃借権が設定されている土地は、消滅させる(抹消する)必要があります。
  • ③通路など他人に利用されている土地×
    ⇒対象となる土地を第三者が通路(道路)等に利用している場合は制度を利用できません。
  • ④土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地×
    ⇒土地が特定有害物質により土壌汚染されている場合は制度を利用できません。
  • ⑤境界不明の土地、所有権の存否や範囲に争いがある土地×
    ⇒隣接する土地との境界が分かる資料(写真や地積測量図、公図)の提出が必要になります。
  • ⑥崖がある土地であり、かつ、管理に費用や労力がかかる土地×
    ⇒勾配が30度以上あり、高さが5メートル以上の崖があり、崩落の危険性があるなど、管理に過分な費用や労力が必要な土地は対象外になるようです。
  • ⑦土地の上に車両または樹木などの工作物が存在する土地×
    ⇒倒木の恐れがある樹木や定期的な伐採を行う必要がある樹木、建物には該当しない廃屋、放置車両が土地の上に存在する場合は、これらを撤去する必要があります。
  • ⑧土地の地下に除去すべき有体物がある土地×
    ⇒有体物とは、産業廃棄物や屋根瓦などの建築資材(「ガラ」といわれるもです。)、既存建物の基礎部分やコンクリート片、古い水道管、井戸、大きな石などが土地の地下にある場合は、除去する必要があります。
  • ⑨隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ、管理又は処分ができない土地×
    ⇒帰属の対象となる土地が公道に面していない(袋地)場合に、公道までの通路を隣接する土地の所有者が妨害していることや所有者以外の第三者に不法に占有されている土地、隣接地から継続的に流水がある土地は対象外になります。
  • ⑩その他、管理や処分をするにあたり過分の費用又は労力がかかる土地×
    ⇒①~⑨以外にも災害の危険があり防止するための措置が必要な土地、鳥獣・病害虫が生息する土地、適切な管理がされず国による整備が必要な土地、通常の管理費用以外に費用が掛かる土地なども対象外になります。

POINT③負担金の納付(管理費用の納付)

負担金とは、帰属した土地を国が管理するための10年分の管理費用のことです。

申請が承認された後に、法務局から申請人に対して負担金の通知が送られてきます。

負担金は期限内(通知から30日以内)に納付しなければならず、期限内に納付できない場合は承認が無効になりますので、ご注意ください。

納付する負担金の額は、以下のとおりです。

  • 【原則】1筆/20万円 ※土地の種類や面積に関係なく
  • 【例外】土地の種目(種類)や土地がある地域によっては面積に応じて計算が必要になる

具体的な計算方法については、法務省HPに掲載されている負担金自動計算シートをご活用ください。⇒負担金額の自動計算エクセルシート(引用元:法務省ウェブサイト

(例外)負担金の算定式

引用元:法務省ウェブサイト「相続土地国庫帰属制度の負担金

※市街化区域とは・・・既に市街地を形成している区域又は計画的に市街化を図る区域のことです。
※用途地域とは ・・・住宅・商業・工業などの土地利用が定められている地域のことです。
※農用地区域とは・・・農業振興を図るべき地域として指定された区域のことです。

市街化区域や用途地域については、土地の所在地を管轄する行政(区や市)のHPや行政の窓口で直接調べることができます。

申請する手順

申請先

  • 申請先は、土地の所在地を管轄する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門です。申請方法は、書類を管轄の法務局窓口に持参して提出するほか郵送で申請することもできます。※なお、法務局の出張所や支局では申請を受け付けてませんのでご注意ください。

    例)不動産の所在地が東京都⇒東京法務局
      不動産の所在地が北海道⇒札幌地方法務局
      不動産の所在地が沖縄県⇒那覇地方法務局

法務局の管轄については、〈法務局:管轄のご案内〉をご覧ください。

手続きの流れ

事前の相談

全国の法務局・地方法務局において、相続土地国庫帰属制度の利用に関する相談を受け付けています。

土地の所在地を管轄する法務局が遠方の方は、ご自宅などに近い法務局・地方法務局(本局)の窓口に相談できます。ただし、相談には事前予約が必要になります。

承認申請

帰属対象となる土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)に申請書と添付書類を提出します(持参又は郵送)。

【添付書類の具体例】

  • (1)承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
  • (2)承認申請に係る土地と隣接する土地との境界点を明らかにする写真
  • (3)承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
  • (4)申請者の印鑑証明書

【審査手数料】

  • 土地1筆につき14,000円(収入印紙にて納付)
法務局の担当者による書面審査と実地調査

法務局では、提出された書類の審査を行った後、要件に該当する土地であるか現地を調査します。

また、法務局の担当者は、申請者本人に同行を求めることやその土地の周辺関係者から事実聴取を求めることができます。その際、申請者本人が正当な理由なく同行を拒否した場合は、承認申請が却下されますのでご注意ください。

負担金の納付

審査の結果、申請が承認されると法務局から申請者に対して、「法務大臣が承認した旨と負担金の額を記載した通知書」及び「負担金を納付するための納入告知書」が送られてきます。

土地が国に帰属

負担金が納付された後に、土地の所有権が国に移転されます(嘱託による登記)。
土地の登記簿には、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律第11条第1項の規定に基づく令和〇年〇月〇日所有権の国庫帰属」と記載されます。※日付は、負担金が納付された日です。

まとめ

最後まで、お読みいただき有難うございました。

相続土地国庫帰属制度のまとめは、以下のとおりです。

  • POINT①制度を利用できるのは、原則として相続人
  • POINT②引き取ってもらえる土地には要件がある
  • POINT③制度を利用するには負担金を納める必要がある

相続土地国庫帰属制度に対する司法書士としての個人的な感想は、制度を利用するには土地を売却する際の準備と同等の手間がかかるため、制度を利用する方にとっては相応の負担が伴うことです。

土地を売却する時も建物の解体、担保権の抹消、土地の測量、境界確認などが必要になります。ただし、土地を売却する場合は、これらの手続きを売主である土地の所有者に代わって、不動産仲介会社、土地家屋調査士、司法書士が進めることになります。

ただ、相続土地国庫帰属制度を利用する場合は、原則として申請人自身で準備する必要があります。

申請自体は簡単そうに見えますが申請が承認されるためには事前の準備に手間や負担が伴うため、あらかじめ慎重に検討してから申請することをお勧めします。

最後に当事務所では相続土地国庫帰属制度についての相談も承っております。

お気軽にご相談ください。

お問い合わせは※こちらまで。

山田武史司法書士事務所 〒107-0062 東京都港区南青山二丁目2番15-1319号
TEL: 03-6434-0717 FAX: 03-6434-0727

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