遺産(相続財産)の使い込みに気づいたら

相続が開始した後に、一部の相続人が他の相続人に黙って、遺産(相続財産)を使い込んでしまうことがあります。特に、亡くなった方の預貯金を勝手に引き出してしまうケースです。

預金を引き出す目的は問わず、一部の相続人が他の相続人の同意を得ずに、預金を黙って引き出してしまうことは、相続人間で争いになる可能性が高いため絶対に避けるべきです。

ここでは、遺産の使い込みに気づいたときの確認方法と予防方法について、ご説明いたします。

相続開始前(過去)の財産の使い込みを確認する方法

相続が開始する前に財産の使い込みが行われていることがあります。
例えば、高齢の親である本人に代わって、周りの親族がその人の預貯金を管理していたようなケースです。

そういったケースでは銀行から預貯金の取引明細書(入出金明細)を発行してもらうことで、口座の取引履歴を調査することができます。

金融機関では、取引履歴を10年保管しており、言い換えれば過去10年分であれば預貯金の取引履歴を確認することができます。この取引明細書の発行請求については、口座名義人が亡くなった(相続開始)後であれば、口座名義人(被相続人)の相続人であれば1人からでも発行の請求ができます。

相続開始後(現在)の財産の使い込みを確認する方法

相続開始後の相続財産の使い込みを確認する方法は、被相続人の銀行通帳を確認することから始めます。

銀行通帳に記帳すると、過去の取引履歴が記載(記帳)されます。通帳へ記帳することで相続開始時から今現在までの入出金履歴が確認できます。

その他にも相続開始時の預金残高を確認するために、「残高証明書」の発行を請求します。残高証明書とは、ある特定の日に預金残高がいくらあったのか証明する書類です。

被相続人の死亡日を指定して残高証明書を取得することで相続開始時の預金残高を確認することができます。

この残高証明書は、相続人であれば1人で請求できますので、取引明細書(入出金明細書)と一緒に取得することで、相続開始時から今現在までのお金の動きを正確に把握することができます。

※残高証明書の取得については、詳しくは「相続財産調査」「預金口座の相続について」をご覧ください。

取引明細書(入出金明細書)の取得方法

被相続人の銀行口座を確認する
  • 被相続人がどの金融機関と取引をしていたか、もしくは口座を持っていたかを確認します。
  • 被相続人の銀行通帳やキャッシュカード・郵送物などから金融機関を特定します。
取引明細書の発行手続き

被相続人が取引していた金融機関に電話で連絡します。その際、口座名義人が亡くなった(相続が開始した)ことを伝えて、必要書類を確認します。
※銀行の支店窓口に出向くか、金融機関によっては郵送での請求も対応してくれるようです。

相続人が開示請求する場合の大まかな必要書類は、下記のとおりです。
ただし、金融機関ごとに取扱いが異なることもありますので事前確認は必要になります。

必要書類

  • 開示請求書(各金融機関の所定様式による)
  • 被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本
  • 請求する人が相続人であることが確認できる戸籍謄本
  • 請求する人の印鑑証明書(※発行日などの有効期限は要確認)
  • 請求する人の本人確認資料(運転免許証など)
  • 発行手数料(※証明する期間に応じて)
取引明細書の取得

請求してから1週間から10日程で、銀行から請求した相続人の自宅宛てに郵送で取引明細書が送られてきます。

黙って預金を引き出すと、他の家族から使い込みの疑いをもたれます

相続開始時に一部の相続人が他の相続人に黙って、故人の銀行口座から預金を引き出すと、相続人間でトラブルになる可能性があります。

よくあるケースとして故人に代わって、ご家族が本人のキャッシュカードや通帳・銀行印などを管理していて、銀行に相続が開始したことを知らせず預金を引き出すことです。

そういった行為は利用目的を問わず、他の相続人から相続財産の使い込みを疑われるなど相続トラブルに発展する可能性が高いです。

ただし、相続が発生した後は葬儀費用や故人の医療費の支払いなどが必要になり、遺産分割協議などの相続手続きが終わるまで支払いを待てないことがあります

そのようなときに、故人の口座から預金を引き出す場合には、以下に記載するポイントを意識して、後に相続人間でトラブルにならないよう十分に気を付けてください。

①引き出す金額は必要最小限にとどめる

葬儀費用や亡くなられた方の医療費や生活費などの支払いのために預金を引き出すときは、支払いに必要な最小限度の額に留めて引き出すことが望ましいでしょう。

たとえ、引き出す金額が高額であったとしても亡くなられた方ために支払うことが必要な費用であれば問題ありませんが、必要額以上に預金を引き出すと使い込みを疑われてしまうのでご注意ください。

②預金を引き出す目的は明確にして記録を残す

相続開始後に預金を引き出す場合は、「何のために」、「いつ」、預金を引き出すのか目的と記録は明確に残します。

具体的には、葬儀費用や医療費の支払いのために、請求書や領収書を保管するのとあわせて、銀行通帳に記帳して記録を残すことが重要になります。

引き出した預金がいつ、何に使われたのか使途が不明となると、相続人同士のトラブルに発展しやすくなります。何に使ったのか記録を残すことで、預金を引き出した目的が明確になり、相続人同士のトラブルを予防することができます。

他の相続人から了承を得ること

預金を引き出すときは、他の相続人から了承を得るようにしましょう。他の相続人に黙って、勝手に預金を引き出す行為は、引き出す目的を問わず相続財産の使い込みを疑われます。

少なくとも預金を引き出す前に、他の相続人へ「何にいくら必要なのか」を伝えて、支払った後は請求書・領収書を保管することでトラブルを防ぐことができます。

相続開始後に財産の使い込みを防ぐ方法

被相続人の銀行口座を凍結する

相続財産の使い込みを防ぐ対処法としては、その口座のある銀行に口座名義人(被相続人)が死亡したことを伝えて口座を凍結してもらうことです。

口座が凍結されると、被相続人の預金口座から現金を引出したり、自動引き落としなどを含めた口座取引の一切ができなくなります。

口座が凍結されると相続人であっても預金を引き出すことが出来なくなります。

銀行に対して「残高証明書」や「取引明細書」の発行請求をする際に、口座名義人が死亡した旨を併せて伝えることで口座は凍結されますので相続財産の使い込みを防ぐことに繋がります。

※口座が凍結された後の手続きについて、詳しくは「預金口座の凍結(停止)を解除したい」、「預金口座の相続について」をご覧ください。

預金口座を凍結するときの注意点

銀行口座を凍結することは他の相続人の使い込みを予防するためにも重要なことですが、ご家族が亡くなった後は、医療費や介護費用、葬儀費用など様々な費用の支払いが発生します。

また、公共料金の支払いやクレジットカード会社からの引き落としを被相続人の口座に設定していた場合は、口座が凍結されると支払いや引き落としが停止してしまい、一時的にとはいえ、電気代やガス代などの公共料金が未払いの状況になります。

ご心配であれば、口座凍結前に引き落とし口座の切り替えや、葬儀費用などの必要な支払いについては、必要な分だけ口座から預金を引き出しておき清算が終わってから、被相続人が死亡したことを銀行に伝えた方が良いでしょう。

また、口座凍結後に預金を払戻す方法として「預貯金の仮払い制度」があります。

預貯金の仮払い制度について詳しくは「預金口座の凍結(停止)を解除したい」をご覧ください。

相続開始前に財産の使いこみを予防する方法

財産を所有されている方の生前に、他の親族による使い込みを防ぐための事前の対策をご紹介します。

①財産管理等委任契約を締結する

財産管理等委任契約とは、本人の代理人として信頼できる家族や第三者に財産の管理などを委任(お願い)する契約です。契約により本人に代わって代理人が財産の管理することで、他の親族(相続人)が本人の財産を使い込むことを防ぐことができます。また、後述する任意後見制度をあわせて利用することで、ご本人の判断能力があるうちは財産管理等委任契約で財産を管理して頂き、判断能力が低下した後は任意後見制度に移行することで、より確実な財産管理の仕組みが可能になります。

②任意後見制度を利用する

任意後見制度とは、本人の判断能力が不十分になったときに備えて、信頼できる家族や第三者を代理人(任意後見人)として、財産管理や介護などの事務を委任する契約です。

一般的に、後見人といわれている方は、本人の判断能力が不十分となった後に、家庭裁判所から選任される法定後見人のことですが、任意後見制度は本人が判断能力を有しているときに、本人の意思により後見人(代理人)となる方をあらかじめ契約で指定する制度です。

例えば、親が今は元気でも将来認知症にかかり財産管理を出来なくなった時に備えて、家族の中で信頼できる方を代理人(任意後見人)として契約することで、親に代わり、その家族の方が任意後見人として財産を管理しますので、他の相続人(親族など)の使い込みを防ぐことができます。

※任意後見制度について、詳しくは「成年後見について」をご覧ください。

③家族(民事)信託を利用する

家族(民事)信託とは、財産を所有されている方が将来ご自身で財産の管理ができなくなったときに備えて、信頼できる家族(又は親族など)に、その財産を託して(信託)、本人に代わって財産の管理を行ってもらう財産管理の仕組みの一つです。

家族信託では、本人から財産を託された家族は「受託者」として、本人のために財産管理を行いますので受託者自身のために財産を使用することはできません。また、受託者の使いこみを予防するために、受託者を監督する「信託監督人」 を置くこともできます。

信託監督人とは、受益者(本人)のために、受託者が財産を管理しているのか監督する人のことです。

家族信託は、財産の使い込みを予防するだけはなく、将来、財産をどのように利用していくのか方針や流れを決めることもできます。

※家族(民事)信託について、詳しくは「家族信託(家族のための信託)とは」をご覧ください。

まとめ

相続におけるトラブルは、遺産(相続財産)の使い込みやその疑いによる不信感から始まります。生前から故人と同居していた方などは、そういったことを意識せずに、相続開始後も普段と変わらずに故人の口座から「うっかり」お金を引き出してしまうこともあるでしょう。

ただし、それがきっかけに家族間でトラブルに発展してしまい、解決するまでには当事者に相当な負担がかかります。

相続に関わらず、家族の財産を不用意に使用することは控えた方が賢明です。また、相続が開始した後にトラブルにならないよう、遺言書の作成や家族信託など生前から対策することも検討してみてください。

当事務所では、遺言書や家族(民事)信託のご相談も承っております。

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