記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。
相続放棄とは、相続人としての地位や権利を相続人自らが手放す手続きのことです。
相続放棄を検討中の方に、特に注意いただきたいのが、特定の財産を受け取ると相続放棄自体ができなくなることです。
本記事では、相続放棄を検討中の方に向けて、相続放棄の有無に関係なく受け取れる財産と受け取る際は、慎重になる必要がある財産について、解説いたします。
相続放棄について、詳しくは「相続放棄とは」をご覧ください
このページの目次
相続放棄を検討中の方でも受け取れる財産
生命保険金
故人(被相続人)が被保険者(保険対象者)として生命保険に加入していた場合に、保険会社から支払われる死亡保険金は、受取人に指定された人の「財産(固有財産)」とされてます。
そのため、保険契約により、受取人として相続人が指定されている場合は、相続放棄した相続人であっても保険金を受け取ることができます。その反対に保険金を受け取った後に相続放棄をすることもできます。
死亡保険金の受取人として「亡くなった本人(故人)」が指定されている場合は、保険金を受け取るための権利が「相続財産」に含まれるため相続放棄をした相続人は、死亡保険金を請求もしくは受け取ることはできません。なお、相続放棄をする前に受け取ってしまうと相続したとみなされて、相続放棄自体ができなくなる可能性があります。
遺族年金
遺族年金とは、亡くなった方が国民年金(又は厚生年金保険)の被保険者であった場合に、残されたご家族に支給される年金のことです。
遺族年金を受け取る権利は、受給者である遺族の固有の権利であるため、相続放棄の有無に関係なく遺族年金を受け取ることができます。
未支給の年金
未支給の年金とは、亡くなった方が年金受給者であった場合に、亡くなったときに支給されていなかった年金や故人が亡くなった後に支給された年金のことです。
そして、未支給の年金は、「相続財産」ではなく、一定の遺族に対して支給される「固有財産」とされています(最判平成7年11月7日)。そのため、相続放棄の有無に関係なく、遺族は未支給の年金を受け取ることができます。
また、年金が支給される一定の遺族とは、故人が亡くなった当時、生計を同じにしていた①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦その他3親等内の親族と請求できる人には順位が決まっています。
この未支給年金は、老齢年金だけに限らず、障害年金や遺族年金も該当しますが、上述した遺族年金とは別に請求する必要があります。
死亡退職金
死亡退職金とは、亡くなった人が受け取るはずであった退職金を遺族に支払われる金銭のことです。
この死亡退職金については、亡くなった人の勤務していた会社の死亡退職金の支給に関する規定に、受取人が指定されている場合は、その受取人の固有財産とみなされます。
したがって、受取人として指定された人は、相続放棄の有無に関係なく死亡退職金を受け取ることはできます。
故人が勤務していた会社の死亡退職金の支給に関する規定に、受取人の指定が無い場合は死亡退職金は相続財産に含まれることになります。したがって、相続放棄した方は死亡退職金を受け取ることはできませんし、相続放棄をする前に、受け取ってしまうと相続したとみなされて相続放棄自体ができなくなる可能性があります。
お香典・ご霊前
お香典やご霊前は、通夜や葬儀費用を負担している喪主への贈与とされていますので、相続財産には含まれません。
したがって、相続放棄の有無に関わらず、受け取ることができます。
祭祀財産(お墓・仏壇)
仏壇やお墓などの祭祀財産は、相続財産には含まれず、慣習や習慣に従って、祭祀承継者が引き継ぐものとされています。したがって、相続放棄の有無に関係なく祭祀財産を承継することはできます。
埋葬料・葬祭費
埋葬料・葬祭費とは、社会保険又は国民健康保険、後期高齢者医療制度に加入していた方が亡くなられた場合に、喪主の方に支給される給付金のことです。
葬祭費・埋葬料は、故人が亡くなったことにより自治体から支給される給付金になりますので、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄の有無に関係なく受け取ることができます。
受け取る際は、慎重になる必要がある財産
故人の財産(相続財産)
故人が亡くなった時に所有していた財産(相続財産)は、相続放棄した相続人は受け取ることができません。また、相続放棄をする前に受け取ってしまい、処分(売却)してしまうと相続したとみなされて、相続放棄ができなくなります。
以下に、相続財産の具体例を記載します。
【相続財産】
- 故人が所有していた預貯金、現金、有価証券、不動産
- 故人が所有していた宝石、貴金属、絵画など
受取人に故人が指定されている生命保険金
先にもご説明しましたが「亡くなった本人」が「受取人として指定されている」生命保険は、「相続財産」に含まれるとされています。
したがって、相続放棄をした相続人は、故人が受取人となっている死亡保険金を受け取ることはできませんし、相続放棄する前に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。
医療保険の給付金(入院給付金・通院給付金)
故人が医療保険に加入し、かつ受取人となっている「入院給付金」「通院給付金」などは、相続財産に含まれるため、相続放棄をした相続人は給付金を受け取ることはできません。
なお、相続放棄をする前に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。
医療保険の契約者及び被保険者が故人で、給付金の受取人がご家族の場合は、医療保険給付金については、受取人の固有財産となります。したがって、受取人であるご家族が相続放棄をしている場合でも給付金を受け取ることができます。
高額療養費の還付金
高額療養費の還付金とは、医療機関(病院・薬局)等で支払った金額が自己負担分を超えた場合に、その超えた部分について、後から払い戻される制度です。
高額療養費の還付金は、世帯主又は被保険者に支払われます。したがって、亡くなられた方が世帯主もしくは被保険者であった場合は、還付金を受け取る権利が相続財産に含まれることになり、相続放棄をした相続人は受け取ることはできません。
また、相続放棄の前に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。
故人が被保険者や世帯主ではない場合は、還付金を受け取る権利は世帯主又は被保険者にあるため、亡くなった人の相続財産に含まれず、世帯主や被保険者(相続人)は、相続放棄したとしても高額療養費の払い戻しを受けられます。
所得税等の還付金
所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料などを払い過ぎたときの還付金は納付した人に支払われるため、納付した方が亡くなっている場合は、還付金を受ける権利は、相続財産に含まれます。
したがって、相続放棄をした相続人は還付金を受け取ることはできませんし、相続放棄の前に受け取ると相続放棄自体ができなくなる可能性があります。
未払いの給与
亡くなった方が会社に勤めていた場合に、未払いの給与が発生することがあります。
未払いの給与は、勤務していた故人に支払われるのが原則であるため相続財産に含まれることになります。したがって、相続放棄をした相続人は未払いの給与を受け取ることはできず、相続放棄をする前に受け取ってしまうと相続放棄自体ができなくなる可能性があります。
勤務先である会社の就業規則に受取人の指定があれば、未払いの給与は、その受取人の固有財産となるため相続放棄をしても受け取ることができます。
判断に迷ったら専門家に相談する
ここでは、相続放棄を検討中の方に向けて、受け取れる財産と受け取る際は慎重になる必要がある財産をご紹介しました。
ただ、実際には相続放棄を検討中の方に取って受領しても問題ない財産であるかは、個別に判断をしていくことになります。
安易に受け取ってしまうと相続放棄が出来なくなる財産もありますので、判断に迷っている方は、受け取る前には、必ず専門家に相談されることをお勧めします。
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