成年後見について

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成年後見制度とは

成年後見について

成年後見制度とは、認知症や知的障害など、判断能力が不十分な方を保護・支援するための法律上の制度のことです。

判断能力が低下した方は、ご自身が行った行為やその結果を認識して理解することが難しくなり、その結果本人にとって不利な条件で契約を結んでしまったり、悪徳商法や詐欺の被害に遭うリスクが高くなります。

そういった被害や不利益を本人が被らないように、成年後見人が本人に代わって財産管理や契約などの支援を行うための制度を成年後見制度といいます。

成年後見制度を利用しないリスクについて

成年後見制度を利用しないリスクについてですが、冒頭でも述べたとおり判断能力が低下した本人が悪徳商法や詐欺などの被害に遭うリスクを防止するためにあります。

さらに、もう一つの理由として通常の取引(契約)における当事者にとっても後にトラブルになることを予防することができます。契約を法律上有効なものにするためには、契約する当事者に、契約を結んだ結果、自身に対して、どういうメリットやデメリットが起きるのか、その良し悪しを判断できる能力が必要になります。

当事者に、その判断をするための能力が無いと契約自体が無効となる可能性があります。

しかも、この無効という効力の影響は、当事者以外の利害関係を有する第三者にも及びます。

例えば、判断能力に疑いがある売主が不動産の売買契約を結んで買主へ不動産を売却したとします。
その後、買主が第三者へ不動産を売却(転売)した後に、当初の売主に判断能力がなかったとして契約が無効とされてしまうと第三者へ売却した契約も含めて全てが無効になる可能性があります。

契約が無効とされた当初の買主は売却先の第三者に対して損害賠償などの重い責任を負うことになります。そういったリスクを防ぐためにも本人にとって契約をすることが相当なのか家庭裁判所の監督のもと後見人が本人に代わって手続きを行う必要があるということです。

成年後見制度は、判断能力が低下した本人だけではなく契約する相手方にとってもトラブルになるリスクを予防することを期待できます。

成年後見制度を利用しないリスクについて

成年後見制度が利用されているケースとは

成年後見制度がどのようなケースで利用されているかについて、裁判所が公表している成年後見制度の利用(申し立てた動機)に関する統計を基に、代表的な例をご紹介いたします。

①預貯金等の管理・解約をするため(32.9%)

「預貯金等の管理・解約」とは、銀行口座からお金を引き出したり、定期預金の解約手続きなど銀行に対する手続きのことをいいます。

口座名義人が認知症になってしまうと、その事実を知った銀行は本人が行う銀行手続きに大幅な制限をかけたり、口座を凍結することがあります。

たとえ子や親族であっても本人に代わって、これらの銀行手続きをすることは基本的にはできません。
こういったケースでは銀行側から後見人を選任することが求められるため後見制度を利用されるケースとしては一番多いようです。

②身上監護・介護保険の契約のため
(身上保護24.4%・介護保険の契約13.6%)

身上監護とは判断能力が不十分な方の住居を確保したり病院への入院手続きなど、生活をするうえで必要になる手続きを支援することです。

同居している親族が本人の身の回りのお世話をしている場合には、後見制度を利用する必要性は低いかもしれません。ただし、本人と親族が離れて生活していて、身近に本人を支援できる方がいない場合に、成年後見制度を利用されるケースも増えているようです。

また、本人が介護施設へ入所する際の手続きやそれに伴う介護保険契約も認知症などにより本人の判断能力が低下してしまうと後見人が代理人として手続きを行う必要があります。

③不動産売却のため(11.6%)

不動産を売却するための手続きでは売主の意思能力の有無が重要となります。

具体的には、不動産を所有されている方に売却する意思があるのか第三者でも確認できる必要があります。売主の方が認知症などにより判断能力が低下しており、売却するための意思確認ができない場合には、本人に代わって後見人が手続きを進めることになります。

また、本人が住んでいる自宅を売却するには、後見人の選任とあわせて家庭裁判所の許可が必要になります。

④遺産分割などの相続手続きのため(8.3%)

相続手続きにおいては、遺産分割協議が必要になるケースがあります。

遺産分割協議は相続人のうち1人でも意思能力や判断能力が欠けてしまうと成立しません。

最近では、相続人自身の高齢化に伴い一部の相続人について意思確認ができないことがあります。こういったケースでは、相続人に代わって後見人が遺産分割協議に参加することになり、成年後見制度を利用するケースの一つでもあります。

成年後見制度には2つの種類がある

世間一般に、「成年後見」と聞くと、家庭裁判所から選任される後見人である「法定後見制度」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

成年後見制度には、「法定後見制度」以外にも「任意後見制度」があります。

以下に、2つの制度について概要をご説明いたします。

成年後見制度には2つの種類がある

法定後見制度とは

法定後見制度は、既に判断能力が不十分になった方を対象に家庭裁判所によって選ばれた後見人等が支援する制度です。

法定後見制度は、ご本人の障害や認知症の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの段階に分けられて、段階に応じて本人を支援する人の名称と支援する内容が変わります。

法定後見制度とは

法定後見制度の3つの類型

補助

対象となる方:判断能力が不十分な方

補助は、精神上の障害により判断能力が不十分な方を対象に支援するのための制度です。

具体的には高価な財産の売買なども含めて、大抵のことは本人の判断できるが第三者の保護や支援があった方が良いと思われる状況にある人です。

「補助人」には、家庭裁判所が認めた特定の法律行為について同意権・取消権・代理権が与えられます。

保佐

対象となる方:判断能力が著しく不十分な方

保佐は、軽い認知症などにより判断能力が著しく不十分な方を対象に支援するための制度です。

具体的には、日常生活に必要な買い物などはできるが、高額な財産の売買など重要な取引に関する行為を1人で行うことが困難であったり不安である方です。

家庭裁判所によって選任された「保佐人」には、重要な法律行為(借金や不動産の売却)について同意権が与えられます。

例えば、本人がお金を借りたり、不動産を売却するには保佐人の同意が必要になり、これらの行為を保佐人の同意なしに行った場合には、保佐人は取り消すことができます。

また、保佐人には、家庭裁判所が定めた範囲で、これらの行為以外にも同意権や取消権が与えられ、特定の法律行為については代理権が与えられることもあります。

後見

対象となる方:判断能力を欠く常況にある方

後見は、重度の認知症などによって、常に判断能力を欠く方を支援するための制度です。

家庭裁判所により選任された「後見人」には、本人の財産管理や必要な契約を締結するための権限(代理権)が与えられます。

また、後見人は本人が行った契約などを後から取り消すことができます。

ただし、日用品の購入などの日常生活に関する行為(ex.日用品の買い物)は、本人が自ら行うことができますので、たとえ後見人であっても取り消すことはできません。

法定後見人等になれる人

法定後見人等になるために特別な資格は要求されていません。したがって、本人の親族が後見人になることもできます。

ただし、下記に該当(欠格事由)する方は、法定後見人になることはできません。

法定後見人等になれない人

  • 未成年者
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 家庭裁判所から法定代理人、保佐人、補助人として解任されたことがある人
  • 本人に対して訴訟をしている(したことがある)人並びにその配偶者と直系血族

上記に該当する方は、本人の財産管理等をするうえで適格性を有しないとされていますので、法定後見人等にはなれません。

専門家である第三者が後見人に選任されることもある

上記に該当しなければ、家庭裁判所に本人の親族などを後見人候補者として申立てることはできます。ただし、家庭裁判所は必ずしも親族などの候補者から後見人を選任するとは限りません。

以下に該当するケースでは、事案に応じて弁護士、司法書士などの専門家が後見人として選任されることがあります。

  • 親族間に対立がある
  • 本人が保有している資産が多額
  • 本人の収入額及び支出額が過大など、第3者による管理が必要と判断されるとき
  • 後見人等候補者と本人との間に利害関係がある
  • 後見人等候補者と本人との関係が疎遠であった

法定後見人ができること

ここからは、法定後見制度(補助、保佐、後見)の中でもっとも多く利用されている法定後見人の役割や業務など、後見人ができることを記載いたします。

財産管理

法定後見人は、本人の生活を支援するために本人の預金や不動産等の資産を管理します。

なお、財産の管理とはいっても本人の生活を維持することが前提になりますので、法定後見人は財産を増やすための投資など、積極的な資産運用は基本的にはできないことを意識して管理する必要があります。

後見人が行う財産管理は、以下のとおりです。

  • 不動産の管理・処分(自宅の売却など)
    ※本人の居住用不動産(自宅)を売却するには、事前に家庭裁判所から許可を得る必要があります。
  • 預貯金、現金、有価証券の管理(税金や公共料金の支払い、その他収入・支出の管理など)
  • 本人に代わって行う法律行為(遺産分割協議、売買契約、賃貸借契約の締結や解除など)

※日常の生活用品等の購入などは、本人自ら行うことができます。

身上監護

身上監護とは、本人の心身や生活状況に配慮しながら、適切な医療や介護を受けることができるように必要な手配や手続きを行うことです。

具体的には、以下の手続きを後見人が行います。

  • 介護、生活維持に関すること(介護保険の認定申請、介護サービス事業者との契約など)
  • 住居の確保に関すること(賃貸借契約の締結など事務手続き、固定資産税の支払い、家屋の修繕のための契約など)
  • 施設の入退所に関すること(施設などの入退所に関する手続きや施設への訪問、監視など)
  • 医療に関すること(治療、入院に関する病院との契約など)
  • 教育、リハビリに関すること(教育、リハビリ施設に関する契約など)

上記以外にも法定後見人は、半年から1年に一度、後見事務や財産の収支などの報告書を家庭裁判所へ提出する必要があります。

法定後見人ができないこと

後見人は、本人が安定した生活を送ることができるように、財産管理や身上監護に必要な法律行為を行います。

しかし、本人のためにする「事実行為」や本人の身分関係に関する「身分行為」をすることはできません。

以下に、具体例を記載します。

事実行為

  • 施設や病院への送迎
  • 掃除、洗濯、食事の提供、生活用品の買い物
  • 食事や入浴等の介助

※後見人は、上記のサポートを本人が受けられるように、施設との契約など必要な手配を行います。

身分行為

  • 養子縁組をすること
  • 婚姻届、離婚届を出すこと
  • 子の認知をすること

※上記の行為は、たとえ後見人であっても本人に代わってすることはできません。
婚姻などの本人の身分に関する行為は、本人の意思が尊重されるべきであり、後見人であっても本人の代理人として手続きをすることはできません。

法定後見制度のメリットとデメリット

法定後見制度は、本人の判断能力が低下したからといって、必ず利用しなければならない制度でもありません。

法定後見制度のメリット・デメリットを理解したうえで利用するかどうか慎重に検討する必要があります。

法定後見制度のメリット

①本人の財産を管理(保護)できる

後見人は、判断能力の低下・喪失した本人に代わって施設の入居費用や生活に必要なお金を管理しますので、本人の身近にいる人が財産を使い込むことを防ぐことが出来ます。

②本人にとって不正な契約を解約(防止)できる

後見人には、本人にとって不正な契約を取消すための権利があります。

後見人は、本人にとって不利益になる契約を後から取り消すことができますので、本人が詐欺等の被害に遭うことを予防することができます。

また、本人の生活のために必要な契約などの手続きを後見人が締結することができます。

③家庭裁判所の監督のもと本人の保護が図れる

後見人は、財産の収支報告などについて、定期的に家庭裁判所に報告します。

また、後見人が本人の不動産(自宅)を売却するなど、高価な財産の処分を行うには、家庭裁判所の許可が必要になりますので、家庭裁判所の監督もと後見人は厳格に本人の財産を管理します。

法定後見制度のデメリット

①財産の管理・処分をするには一定の制限がある

後見が開始すると本人の財産については、後見人が全て管理することになります。

ただし、後見人は、家庭裁判所の監督のもと本人の生活を維持するために適切に財産を管理することになりますので一定の制限があります。

つまりは、本人に代わって不動産投資や株式投資等の積極的な資産運用はできませんし、相続税対策のためにお子さんやお孫さんへ財産を贈与することもできなくなります。

後見制度の本来の趣旨は、あくまでも本人の財産を保護し、生活を守るためです。したがって、後見人が行う財産管理についても本人にとって必要な範囲に限られますので、ご家族にとって必要な出費と考えられるものでも本人以外の家族のために財産を支出することは基本的には認められません。

②後見が開始された後は、途中でやめることはできない

後見人が選任されて後見が開始すると、本人の判断能力が回復したと認められない限り、本人が亡くなるまで後見制度の利用が続くことになります。

したがって、後見が終了するまでは長期間に及びます。また、後見人に選ばれた人は、正当な理由がある場合を除き、途中で後見人を辞任・解任できません。

仮に後見人が辞任又は解任されたとしても新たな後見人が選任されて後見制度の利用は続きます。したがって、ご家族が望んだとしても後見制度の利用自体を途中でやめることはできません。

③制度を利用するにはランニングコストがかかる

法定後見制度を利用するときには、家庭裁判所の申立手数料や後見登記手数料などの諸費用を本人が負担しなければなりません。

また、親族が後見人に就任した場合は、無報酬とすることも出来ますが弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれると、月々の報酬の支払いが必要になります。報酬額はご本人の資産額にもよりますが、最低でも月々2万円から3万円程掛かります。

この後見人への報酬の支払いは、後見が終了する(本人の死亡など)まで続きますので、最終的には本人が負担する費用が多額になることがあります。

④親族が後見人になる場合の事務負担が大きい

後見人に就任された方は就任後1か月以内に、本人の財産について財産目録を作成して、家庭裁判所に提出しなければいけません。

また、日常的な業務として本人の預金口座の入出金を管理したり介護施設等への入所契約を締結するなど、本人に代わって必要な事務手続きを行うことになります。

その他にも年に1度、家庭裁判所に後見業務の事務報告書を作成して提出しなければいけません。後見人に就任した人によっては慣れない手続きを伴うことになるため事務負担が重いと感じるかもしれません。

法定後見人の申立手続きの流れ

申立て準備

医師の診断書・本人及び後見人候補者の戸籍謄本・財産目録等を収集して、申し立ての準備をします。

管轄の家庭裁判所へ申立て

本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

審査・面接・調査

家庭裁判所は提出書類を審査し、調査官が申立人や後見人候補者と面接を行い、本人の状況等について確認を行います。必要に応じて本人の精神状態の鑑定が行われることもあります。

後見人候補者が親族のときは、本人の親族に申立内容について意向照会を行います。

後見開始の審判

家庭裁判所は、本人にとって後見人等の選任が必要と判断した場合、後見開始の審判を行います。家庭裁判所は審判と同時に適任と思われる人を成年後見人として選任します。

後見登記

家庭裁判所から東京法務局に後見登記の嘱託(依頼)がされます。後見登記が完了すると後見人の氏名や権限などが記載された後見登記事項証明書が取得できるようになります。

後見人の業務が開始

家庭裁判所から選任された後見人は、本人の財産を調査して審判確定後1か月以内に、家庭裁判所に財産目録を提出しなければなりません。また、年に1回は本人の財産の収支などを家庭裁判所に報告します。

任意後見制度とは

任意後見制度とは、本人の判断能力がある内に、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる第三者を後見人として指定して、どのようなサポート(後見)をしてもらうのか、契約で定めておくことができる後見制度の一つです。

先にご説明した法定後見制度とは異なり、サポートを受ける本人が「誰を後見人として」、「どのようなサポートを受ける(権限を与える)のか」を決めることができるので、家庭裁判所の関与なく後見人を選任することができ、その意味では、ご本人の意思が反映されることになります。

なお、任意後見制度を利用するためには、本人と任意後見受任者(本人が希望する人)が公正証書で任意後見契約を結ぶ必要があります。

法定後見制度と任意後見制度の違い

法定後見制度と任意後見制度は共に、本人の財産や権利を保護・支援するという目的は同じです。ただし、この2つの制度には異なる部分がありますので、以下に違いについてご説明いたします。

①後見制度の利用を始める方法

①後見制度の利用を始める方法(法定後見制度)

法定後見の場合、既に判断能力が低下してしまった方を対象に家庭裁判所に後見開始の申立てを行うことで制度の利用が始まります。

①後見制度の利用を始める方法(任意後見制度)

任意後見制度は、将来ご自身の判断能力が低下したときに備えて、本人が希望する人を任意後見受任者として事前に契約を結ぶことが必要になります。

したがって、契約を締結するには本人に判断能力が必要になりますので、契約を結ぶ前に判断能力が低下・喪失してしまった場合は、基本的には任意後見制度を利用することが出来ません

②後見人による支援が始まるタイミング

②後見人による支援が始まるタイミング(法定後見制度)

家庭裁判所からの後見開始の審判が確定すると法定後見人による本人支援が開始します。

②後見人による支援が始まるタイミング(任意後見制度)

任意後見制度では、任意後見契約を結んだとしても直ぐに任意後見人による本人支援は始まりません。

任意後見契約を締結した後、本人の判断能力が低下した場合に家庭裁判所に対して申立てを行い任意後見監督人の選任されたときに、はじめて任意後見人による本人支援が開始します。

③後見人の選任方法と権限について

③後見人の選任方法と権限について(法定後見制度)

法定後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて、家庭裁判所の判断により後見人等(後見人・保佐人・補助人)を選任します。後見人等の権限についても家庭裁判所が決定します。

また、後見人等は家庭裁判所の方針に従って後見人としての権限を行使するか判断しますが、基本的には本人の利益のために権限を行使しますので一定の制限があります。

③後見人の選任方法と権限について(任意後見制度)

任意後見制度では、契約により後見人の選任や後見人の権限についても定めることができます。

ただし、任意後見人の権限は契約で定めた範囲に留まりますので、任意後見契約を結ぶ際には、将来は発生する様々な事由を想定して、任意後見人に支援してもらう内容を検討する必要があります。

任意後見人になれる人

任意後見人は、サポートを受ける本人と契約を結ぶことにより就任することができます。

ただし、下記に該当する方は任意後見人になることができません。

任意後見人になれない人

  • 未成年者
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 家庭裁判所から法定代理人、保佐人、補助人として解任されたことがある人
  • 本人に対して訴訟をしている(したことがある)人並びにその配偶者と直系血族
  • 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人として適しない事由がある人

上記に該当する方は、本人の財産管理など任意後見人としての適格性を有しないとされていますので、任意後見人にはなれません。

任意後見人ができること・できないこと

任意後見人は法定後見人と同じく本人の「財産管理」「身上保護」は出来ますし、同様に「事実行為」や「身分行為」はできません。

ただし、任意後見人制度では任意後見人の権限(サポート)について、どれを選択するか、どれを外すかを本人が契約により自由に定めることができます。

もっとも、任意後見人の目的は、法定後見と同様に本人の生活を支援して権利を保護することに変わりありません。

任意後見人として何でもできるように契約書に記載してしまうとそれが原因で本人の親族とトラブルになりかねません。契約書に記載する権限については、慎重に検討する必要があります。

任意後見制度を利用・開始するための流れ

任意後見人(受任者)の決定

任意後見人として受任される方を検討します。本人の家族・親族も後見人として受任者になれます。

契約内容の検討

ご本人がどのような支援を受けたいか契約内容を決定します。

任意後見契約の締結(公証役場にて)

公証役場にて公証人の立会いのもと、ご本人と任意後見人に受任する方(任意後見受任者)が任意後見契約を締結します。

任意後見の登記

任意後見契約を締結した後に、公証役場から法務局へ登記の嘱託(依頼)がされます。任意後見の登記が完了すると契約書を作成した公証人、ご本人や任意後見受任者の住所・氏名、権限などの情報が記載された「後見登記事項証明書」が取得できるようになります。

注意:この時点では、任意後見人による後見(支援)は開始しません。実際に後見が開始するのは、ご本人の判断能力が低下した後、次の手続きを行ったときです。

以下からは、任意後見人によるサポートが開始するために必要になる手続きになります。

ご本人の判断能力が低下・喪失した後

任意後見監督人の選任を申立て

家庭裁判所に、任意後見監督人の選任を申し立てます。

任意後見監督人選任の審判(任意後見が開始)

家庭裁判所が審理のうえ任意後見監督人を選任する審判を行います。

※この時点で任意後見人による後見(支援)が開始されます。

任意後見監督人の登記

家庭裁判所から法務局へ再度登記の依頼(嘱託)がされて、「後見登記事項証明書」に任意後見監督人の住所・氏名が登記されます。

任意後見制度のメリットとデメリット

任意後見制度にも法定後見制度と同じくメリットとデメリットがあります。

ご自身やご家族の状況を踏まえて利用するかを検討してみてください。

任意後見制度のメリット

①本人の意思が反映される

任意後見制度の特徴でもありますが、本人が「後見人を誰にするか」、「後見人にどのような権限を与えるか」を契約により自由に定めることができます。

法定後見制度と比べると本人の意思が反映されます。

②将来の備えとして保険になる

あらかじめ任意後見契約を結んでおくことで、万が一判断能力が不十分になった後も生活をサポートしてくれる任意後見人がいることが、ご本人にとっては、ある種の保険となります。

③任意後見監督人が後見人の事務を監督する

任意後見人による支援を開始するためには、任意後見監督人を選任してもらわなければなりません。

本人の判断能力が不十分となった後も、契約に基づいて任意後見人がしっかり本人をサポートしているのか任意後見監督人が監督してくれるため安心です。

任意後見制度のデメリット

①任意後見人には取消権がない

任意後見人は、本人が不利な契約を締結してしまったとしても、その契約を取り消すことはできません。

このようなときは、本人の取消権を任意後見人が代理して行使できる権限や弁護士などの専門家に訴訟を依頼できる権限を任意後見人の代理権として契約書に定めておくことが必要になります。

したがって、契約書を作成する段階で任意後見人に与える権限については、将来起きる可能性がある様々なケースを想定して、それらの事由に対応できるように契約書へ記載する必要があります。

任意後見人の権限については、契約書を作成する段階で慎重に検討します。

②本人が亡くなった後の財産管理はできない

任意後見制度は、本人が生きている間の生活などを支援する制度です。

したがって、本人が亡くなると同時に任意後見人による本人支援も終了します。そのため、基本的には本人が亡くなった後の葬儀の手配やご自宅の片付け等は、任意後見人が行うことは出来ません。

こういった場合には、亡くなった後の葬儀や諸費用の精算等を信頼できる人にお願いする死後事務委任契約を結んでおくと良いでしょう。

③任意後見を開始するタイミングが難しい

任意後見人による本人支援は、本人の判断能力が低下した後に任意後見監督人が選任されてから開始します。

実際には、任意後見契約を結んでから任意後見が開始するまで、ある程度の期間が空きます。

つまり、契約を結んだ後に、いつの時点で本人の判断能力が低下・喪失しているのかを慎重に見極めることが重要になります。

同居しているご家族がいれば、本人の日々の変化に気づくこともありますが、身近に本人を見守る人がいないと、その判断をすることが難しくなるという点もデメリットといえます。

まとめ

成年後見制度は、高齢化社会における現代においては、今後ますます必要になる制度ではあります。

しかし、実際には成年後見制度の利用者数は毎年増加傾向にある一方で、全体の利用者数は、想定よりも伸び悩んでいます。その一番の理由としては、成年後見制度の使い勝手や印象がよくない点です。

ご家族以外の第三者が後見人に選任されることやその後見人に支払う報酬についての費用など成年後見制度を利用するメリットよりもデメリットの方が目立ってしまい制度を利用することに本人のご家族や関係者の方たちに抵抗感があるようです。

また、成年後見制度が利用されているケースも利用する目的の半数以上が本人の財産管理や相続に関する法律上の手続きです。こういった財産や相続に関する手続きは、ご本人の判断能力が低下する前に対策をしておけば解決できることがあります。

もし、成年後見制度以外の方法で対策をしておきたいという方は、家族(民事)信託の活用がおすすめです。家族信託は、事前に信頼できる家族に財産の管理や処分を任せる方法です。

ただし、もっとも重要なことは、どちらの方法が優れているかではなくて、個々の状況を踏まえて、どれが本人にとって最適な手段なのかを選択できるうちに対策を始めることです。

家族信託や任意後見制度など、法定後見制度以外の制度を利用するには、本人に判断能力があることが必要になります。

身体だけではなく心も元気なうちから対策を始めることが最も重要になります。

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