遺産分割協議を行ったとしても必ず協議書を作成する必要はありません。
ただし、後日の紛争を避けるためにも遺産分割協議書協議を作成して、書面として内容を明確するようにします。また、実際の相続手続きにおいては、銀行や法務局には遺産分割協議書の提出が必要になりますので、必ず協議書は作成します。
遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があります。
ただし、参加するとはいっても相続人全員が一同に集まる必要はなく、遠方に在住の相続人がいる等の場合は、各相続人が遺産分割協議を持ち回りで署名・捺印することや「遺産分割証明書」を作成して、各相続人から署名・捺印をもらうことも認められています。
実務上、「遺産分割協議書」の代わりに、「遺産分割証明書(いさんぶんかつしょうめいしょ)」という書類を作成することがあります。
そもそもの「遺産分割協議書」とは、相続人全員が連名で署名・捺印(実印)した書類になりますが、相続人が多数となると、1つの書類に相続人全員から署名・捺印をもらうだけでも相当の時間が掛かります。
そこで、遺産分割協議書と同じ内容を記載した書類を相続人の数に応じて作成し、各相続人が個別に署名・捺印することで遺産分割の結果を証明することができます。この書面を「遺産分割証明書」といいます。もっと簡単にいってしまうと、1枚の書類に相続人全員の連名で署名・捺印した書類を「遺産分割協議書」といい、各相続人ごとに署名・捺印した書類が「遺産分割証明書」です。
「遺産分割証明書」は、事務的な手間を減らせる一方、他の相続人の署名・捺印の状況や協議した内容が共通認識として成立しているか書面からは判断できないことがあります。
ケースによっては、専門家に依頼して、第三者の公平な立場から遺産分割証明書の作成から署名・捺印の手配をしてもらうことも必要になるかと思います。
原則として、相続人以外の方が遺産分割協議に参加することはできません。
ただし、例外として、相続人が自身の相続分(相続する権利)を相続人以外の第三者に譲渡した場合には、相続分を譲り受けた第三者は遺産分割協議に参加することができます。
その他にも包括受遺者は、遺産分割協議に参加することができます。
包括受遺者とは、遺言書により故人から財産を取得する割合を指定されて財産を譲り受ける相続人以外の親族もしくは第三者のことをいいます。
例えば、遺言書に相続人以外の第三者に対して「財産の2分の1を遺贈する」と書いていた場合には、遺贈を受けた第三者(包括受遺者)と相続人は、財産の分け方について遺産分割協議を行うことができます。これは、包括受遺者に相続人と同一の権利義務が与えられるためです。
未成年者(18歳未満)は、遺産分割協議に参加することができません。
したがって、未成年者の相続人がいるケースでは、未成年者の親権を持つ親が法定代理人として、遺産分割協議に参加します。ただし、法定代理人である親自身も相続人である場合には、遺産分割協議において子と利益が相反するとして代理することができなくなります。
つまりは、遺産分割協議で親の相続分が増えれば子どもの相続分が減ることになり、子と親の利益が相反する関係にありますので、親が子の代理人として遺産分割協議を行うことが公平ではなくなります。
未成年者の子と親権者が共に相続人となる場合は、親以外の代理人(特別代理人)を家庭裁判所に選任してもらい、遺産分割協議を行う必要があります。
海外に居住している相続人の方については、実印の代わりに遺産分割協議書へ署名(サイン)をもらいます。
具体的には、その相続人が住んでいる国の日本大使館(日本領事館等)に遺産分割協議書を持参していただき、領事の面前で遺産分割協議書に署名(サイン)をして、その署名(サイン)をした人が相続人本人に相違ないことを証明して(署名証明)をもらうことになります。
また、住民票の代わりとして、在留証明書も併せて取得します。
相続人の中に認知症の方がいる場合には、基本的には遺産分割協議を行うことはできません。
遺産分割協議は、協議に参加する相続人に意思能力が有ることを求められます。意思能力とは、自身が行った行為の意味を認識して判断できる能力のことをいいます。認知症に罹患して意思能力が失われると本人が直接、遺産分割協議に参加することはできません。
この場合には、家庭裁判所に後見人を選任してもらい、相続人と後見人が遺産分割協議を行うことになります。ただし、遺産分割協議のために後見人を選任することは、本人だけではなく周辺のご家族にとって負担になることが多く、遺産分割協議をせずに法定相続分どおりに手続きをすることも検討します。
また、相続が発生する前に、遺言書を作成することや家族(民事)信託を活用するなど、遺産分割協議をせずに相続手続きができるよう相続が発生する前に対策することも検討してみてください。
不在者財産管理人を家庭裁判所から選任してもらうことを検討します。
連絡先が分からず、所在も判明しない相続人がいる場合は、その本人の住民票や戸籍の附票(こせきのふひょう)を取得して、所在の調査と確認をします。
そして、住民票や戸籍の附票に記載されている住所地に、相続人宛に手紙を郵送しても返戻されてしまったり、実際に住んでいないなど、事実上、その相続人の所在が判明しない場合には、家庭裁判所から選任される不在者財産管理人が他の相続人と一緒に遺産分割協議を含めた相続手続きを進めることになります。
遺産分割協議書は、相続人全員から実印による押印が必要になります。
不動産の相続登記や預貯金口座の解約・払戻手続きをするときに、遺産分割協議を提出する場合には、相続人全員からの署名と実印による押印が必要になり、併せて、相続人全員の印鑑証明書を提出することが必要になります。
1人でも実印以外で押印していると、遺産分割協議書を相続手続きで使用することは出来ません。
遺産分割協議書と一緒に提出(添付)する印鑑証明書には有効期限はありません。
ただし、実際の相続手続きの中には、印鑑証明書に有効期限が定められているケースがあります。
例えば、法務局に相続登記を申請するときに、遺産分割協議書を提出するのであれば、一緒に提出する印鑑証明書に有効期限はありません。3月以上前に発行された印鑑証明書を提出しても問題ありません。一方、亡くなった人(被相続人)の銀行口座を解約・払戻しをする際に、銀行に提出する印鑑証明書には、発行日から3か月~6か月以内と定められていることがあります。
遺産分割協議は相続人全員が合意する必要があります。
どうしても一部の相続人から合意が得られない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停とは、裁判所が相続人の間に入って遺産分割の話し合いを進める手続きのことをいいます。
一度遺産分割協議が成立すると、原則としてやり直すことはできません。
例外として、遺産分割協議をやり直すことに相続人全員が合意しているのであれば、再度遺産分割協議を行うことができます。
ただし、再度遺産分割協議をやり直すことで、相続人間で相続する財産や相続する割合が変わる場合には、法律上若しくは税務上は、相続人間で譲渡(贈与)があったとみなされてしまい、相続税とは別に贈与税などの税金が発生することになります。
遺産分割協議を行う際は、相続人全員でしっかりと話し合いを行い、再度協議をすることのないようにしましょう。
法律上は、遺産分割協議をすることや協議書を作成することに期限は定められていません。
ただし、相続税の申告は、原則として相続開始を知った日から10か月以内に行う必要があります。
期限までに相続税の申告をしなければ、各種控除や減額の特例を受けることができなくなります。
そのため、遺産分割協議を伴う相続手続きでは、相続開始から10か月以内に終わらせるのが望ましいとされています。
遺言書は、遺産分割協議に優先します。
遺産分割協議が終わった後に遺言書が見つかったときは、遺産分割協議は無効となり、遺言書の内容に従って、相続手続きを行うのが原則となります。
しかし、相続人や受遺者(及び遺言執行者)の全員が遺産分割協議の内容に同意すれば、遺産分割協議が有効となります。
※受遺者とは、遺言書により財産を受け取る人(相続人以外)のことをいいます。
遺産分割協議書に、亡くなった人の預金口座を記載するときは、その預金口座が特定できる情報を記載することが必要になります。
具体的には、金融機関名・支店名・口座名義人・口座の種類・口座番号です。なお、預金残高の金額を記載することまでは必要ありません。
仮に金額まで記載するのであれば、相続開始時の残高証明書を取得いただき、相続人が亡くなった時の口座残高の金額を正確に記載します。
また、相続開始後から遺産分割協議までの間に生じた利息を誰が受け取るかも併せて記載するようにします。
被相続人の死亡後に発生する葬儀費用は、相続の対象となりませんので、相続人が負担する債務でもありません。したがって、原則として遺産分割の対象にもなりません。
また、一般的な慣習では、葬式の費用は実質的な葬儀主催者である喪主が負担すべきものと考えられています。
ただし、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で葬儀費用を相続人全員が平等に負担することもできますし、相続財産の中から支払うこともできます。
葬儀の香典は、死者への弔意、葬儀費用など遺族が負担する経済的負担を軽減することを目的として祭祀主宰者や遺族へ贈られるものであるため、相続財産に含まれません。
したがって、遺産分割協議の対象にならないとされています。
もっとも相続人全員の合意により香典を遺産分割協議の対象とすることもできます。
お墓などの墓地・墓石や仏壇・位牌(「祭具」)などの祭祀財産は、相続財産に含まれませんので遺産分割の対象にもなりません。
祭祀財産は、民法上「祭祀に関する権利」とされ、祭祀財産を承継される方は、「慣習に従って祖先の祭祀を承継すべき者」(祭祀承継者)が承継すると定められています。
具体的には、被相続人があらかじめ遺言書で定めたり、慣習により承継される方が決まります。
しかし、法的な効力はありませんが、相続人全員が合意していることを確認する意味で遺産分割協議書にお墓・位牌・仏壇といった祭祀承継についても、記載することはできます。
被相続人の債務は、原則として遺産分割協議の対象外になります。債務については、相続が発生すると同時に各相続人が法定相続分に応じて、当然に負担するとされているためです。
もっとも、遺産分割協議の中で債務を負担する相続人を決めることはできます。ただし、遺産分割協議により、特定の相続人が債務を負担すると決めた場合でも、債権者は原則として、相続人全員に各相続人の法定相続分に従い返済を求めることができます。
これは、債権者にとって、債務を負担する相続人を勝手に決められてしまうと、その相続人が債務を負担できる資力がなければ、債権者にとって不利益になるためです。
実務上は、相続人間で債務を負担する人を決める際に、債権者から承諾を得たり、債権者と免責的債務引受契約を締結することで、特定の相続人が債務を負担することができます。
遺産分割協議において、財産を相続しないことは「相続分を放棄」したことにはなりますが、法律上の相続放棄をしたことにはなりません。
相続人が被相続人(亡くなった人)から引き継ぐ財産には、預金や不動産以外にも被相続人が負っていた借金などのマイナス財産が含まれます。そして、遺産分割協議において、プラスの財産を引き継がない場合でもマイナスの財産は各相続人が法定相続分に応じて負担することになります。
被相続人が残した債務を相続したくない場合には、遺産分割協議ではなく、家庭裁判所に相続放棄の申立をする必要があります。
ただし、遺産分割協議をしてしまうと相続人自身が相続することを認めたとみなされるため、後日借金が判明したとしても相続放棄をすることが認められなくなる可能性があります。
したがって、遺産分割協議を行う際は、財産調査など行って相続財産の内訳を確認することや相続手続き自体に関わりたくない方は遺産分割協議をせずに、始めから相続放棄の手続きを行うことを検討してみてください。