記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。
認知症対策など、生前の財産管理対策として利用されている家族信託ですが、利用する際に重要となるのが信託を開始した後に現金を管理する「銀行口座」です。
本記事では、家族信託を始めるときの「銀行口座」について、解説していきます。
このページの目次
家族信託の基本的な仕組み
まず、家族信託の基本的な仕組みについて、ご紹介をしようと思います。
家族信託とは、財産の所有者が財産管理と自身が亡くなった後の資産承継について、信頼できる家族や親族等に任せる(信託する)仕組みのことをいいます。
家族信託の登場人物と役割
委託者(財産を託す人)
委託者とは、自身が希望する目的を達成するために、財産の管理を受託者に託す人をいいます。
受託者(財産を管理・処分する人)
受託者とは、委託者から託された財産を委託者が望む方法や目的に従って管理・処分する人のことをいいます。
受益者(託された財産の利益を受け取る人)
受益者とは、受託者が管理する財産から発生する利益を受け取る人のことをいいます。家族信託を始めるときの多くのケースでは、委託者と受益者が同一人物です。
※イメージ図
詳しくは、「家族信託(家族のための信託)とは」をご覧ください。
家族信託では専用の銀行口座が必要になる
家族信託で重要になるポイントの1つが、委託者から託された財産を受託者は、受託者自身の財産とは分けて管理する義務があるということです。
これを「分別管理義務(ぶんべつかんりぎむ)」といいます。
上記の図のとおり、受託者は委託者から託された財産を管理する権限を持ちますが、受託者自身が元々所有していた財産とは分けて管理する必要があり、委託者から託される財産には現金も含まれます。
したがって、その現金の管理方法を明確にするために「専用の銀行口座」を開設することになります。
また、信託という仕組みの機能の一つに、「倒産隔離機能(とうさんかくりきのう)」というものがあります。
倒産隔離機能とは、委託者から受託者に託された財産は、受託者自身の財産にもならず、かつ、財産を託した委託者の財産からも切り離されて、独立した財産として取り扱われることをいいます。
例えば、委託者や受託者に対する債権者は、信託されている財産を差し押さえることはできず、受託者が破産したとしても信託された財産には影響がないことが特徴にあります。
この「分別管理義務」と「倒産隔離機能」を第三者に対して、明確にするためにも専用の銀行口座の開設が必要になります。
家族信託では「信託口口座」がもっとも最適な口座
家族信託では、委託者から託された現金を管理する口座として、もっとも最適とされているのが「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」です。
信託口口座は、上述した「分別管理義務」を果たすための口座として最適であり、かつ「倒産隔離機能」を有する口座とされています。
そして、家族信託を進める中で、特に意識するのが受託者が死亡したときの対応です。
通常の銀行口座の場合、口座名義人が死亡すると、その口座が凍結されて相続財産に組み込まれてしまい、口座にある預金を受託者の相続人が相続することになります。
信託口口座以外の通常の銀行口座を使用して、受託者が財産管理を行うことは、法律で禁止されているわけではありませんが、受託者が死亡すると受託者自身の財産と見分けが付かなくなり、相続財産に組み込まれて信託事務の停滞や、受託者の相続人から相続財産であると主張されてトラブルになる可能性があります。
信託口口座であれば、受託者が死亡したとしても受託者の相続財産には含まれず、後継の受託者に口座が引き継がれますので、信託事務が停滞することなく信託を継続することができます。
信託口口座の開設は、法律上、義務とはされていませんが家族信託を始めるのでしたら「信託口口座」の開設がもっとも安全であるといえます。
信託口口座を開設するための要件
信託口口座の開設に対応している金融機関は、まだまだ多くありません。また、信託口口座の開設に対応している金融機関であっても要件が定められています。
各金融機関によって異なることがありますが、次のような要件が定められていることがあります。
- 信託契約書の作成に専門家が関与していること
- 信託契約書を作成する段階で金融機関の審査を受けること
- 信託契約書を公正証書で作成すること
- 後継(予備的)受託者の定めがあること
- 当初の受託者は1人であること等
まとめ
認知症や相続など、生前対策を目的として家族信託を利用される方は、信託口口座を開設することをお勧めします。
家族信託では、信託を開始した後のことを意識して、何かあったとしても対応できるよう信託契約書の内容を検討することは、もちろんですが、「信託口口座」を開設することで、より安全に信託事務を遂行できると考えます。
ただし、家族信託における信託口口座の開設は、一つの重要なポイントに過ぎず、家族信託を進める際は、現在の状況や将来を踏まえて総合的に考えて、信託の軸となる方針をどうするのかを検討しなければいけません。
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