記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。
お子様がいないご夫婦の場合、夫(又は妻)が亡くなったときに、残された配偶者は全ての遺産を取得できるわけではありません。
実は、亡くなった夫(又は妻)に両親や兄弟姉妹が存在する場合は、それらの親族にも遺産を相続する権利があります。
本記事では、お子様がいないご夫婦に向けて、相続が発生したときに起きやすいトラブルや相続に備えた対策方法をご紹介します。
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亡くなった人の配偶者だけが相続人ではない
法律上、相続人になれる人には順位が定められています。以下は、相続人の順位になります。
【相続人の順位】民法第900条
①配偶者・・・亡くなった人の夫又は妻
②第1順位・・・亡くなった人の子(孫)
③第2順位・・・亡くなった人の父・母など
④第3順位・・・亡くなった人の兄弟姉妹
上記のとおり、亡くなった人の配偶者は、常に相続人となります。そして、亡くなった人に「子」や「父・母」、「兄弟姉妹」がいると、配偶者は、それらの人と共に相続人となります。
つまり、お子様のいないご夫婦の場合は、配偶者だけが相続人になるわけではなく、亡くなった人に「父・母」や「兄弟姉妹」がいると、配偶者はそれらの親族と共に相続人となります。
したがって、亡くなった人の配偶者が全ての遺産を取得できるとは限りません。
配偶者と親・兄弟姉妹の相続分
各相続人が遺産を相続できる割合についても民法で定められています。
以下は、配偶者と各相続人の相続分になります。
①配偶者と亡くなった夫(又は妻)の両親が相続人となる場合の相続分
- 配偶者:3分の2
- 両 親:3分の1(複数いる場合は、3分の1を⼈数に応じて分配します。)
②配偶者と亡くなった夫(又は妻)の兄弟姉妹が相続人となる場合の相続分
- 配偶者:4分の3
- 兄弟姉妹:4分の1(複数いる場合は、4分の1を⼈数に応じて分配します。)
お子様がいないご夫婦の相続は複雑になりやすい
相続人の数が多数になり、手続きが煩雑になりやすい
亡くなられた人が高齢の場合、その方の両親も既に亡くなっており、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースがよくあります。ただし、その兄弟姉妹も亡くなっているとその子である甥・姪に相続権が発生するため、ケースによっては最終的な相続人の数が数十名になることも珍しくありません。
相続人の数が多ければ、その分利害関係や権利関係が複雑になり、遺産分割協議がまとまらず裁判所を介した手続きに移行せざるを得なかったり、相続手続き自体が停滞することがあります。
配偶者と親族の関係が悪く遺産分割協議がまとまらない
亡くなった方の両親や兄弟姉妹と配偶者は、お互いに協力し合いながら相続手続きを進めていく必要があります。
代表的な手続きとしては遺産の分け方について話し合う遺産分割協議です。しかし、生前から配偶者と義理の両親や兄弟姉妹との関係が悪い場合、話がまとまらなかったり、お互いに話し合うこと自体を拒絶することもあり、相続が複雑になりやすい原因といえます。
今住んでいるご自宅も不安定な状況に置かれる
相続人間で分ける遺産が預金などの現金であれば、各相続人の相続分に応じた分配が可能になるのでトラブルになりにくいですが、遺産の大部分が不動産の場合は注意が必要になります。
土地や建物のような不動産の場合、不動産自体を物理的に分けるわけにもいかず、特定の相続人が不動産を取得する代わりに他の相続人に代償金として、相続分に応じた金銭を支払うことがあります。
しかし、不動産自体の価値が高額な場合、支払う代償金も数百万円以上になることもあり、代償金を支払うことができない場合は、最終的に不動産を売却して換金したうえで各相続人に分配することにもなりかねません。
そのため、自宅をそのまま配偶者に住んでもらいたいと願っていても相続が発生した場合は、不安定な状況に置かれる事態にもなりかねません。
お子様がいないご夫婦の相続の備え
以下からは、お子様のいないご夫婦に向けて相続に備えた対策方法について、ご紹介していきます。
遺言書を作成して相続手続きを円滑にする
相続に備えた対策として効果を発揮するのが「遺言書」です。
遺言書とは、自身が亡くなった後に、「財産を誰に引き継いでもらうのか」を指定する証明書です。
遺言書に書かれた内容は、先程述べた法律に定めれられた相続人の順位や相続分に優先します。つまり、遺言書で財産の承継先を指定することで、相続人同士の話し合いである遺産分割協議を省略できるため相続トラブルを予防する効果があります。
自身が亡くなった後、残された配偶者に全ての財産を相続してもらいたい方は、遺言書を作成することをお勧めします。
配偶者に財産を贈与する
もう一つの方法が財産を贈与しておくという方法です。いわゆる「生前贈与」と言われるものです。
生前贈与をした財産は、相続が発生したときの遺産分割協議などの話し合いの対象となる財産からも原則除外されます。
ただし、贈与をするときに注意が必要になるポイントが2点あります。
1つ目が贈与税という税金です。
贈与税は、贈与をした年(1月1日から12月31日まで)の1年間に、贈与をした財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた額に課税されます。
もっとも贈与する財産の合計額が110万円以内であれば、贈与税は課税されません。また、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合には、最高2,000万円までを控除(「おしどり贈与」ともいいます。)できるという特例もあります。
婚姻関係にあるご夫婦間であれば、条件に該当することで贈与税の課税なく財産を贈与できることになります。
2つ目は特別受益の持ち戻しです。
「特別受益」とは、一部の相続人が亡くなった人から生前贈与や遺贈により譲り受けた財産のことをいいます。
相続が発生した際に、一部の相続人に「特別受益」があると、その特別受益の価額を相続財産の価額に加えて、各相続人の相続分を再計算します。そして、特別受益を受けた相続人の相続分は、その特別受益を受けた分だけ差し引かれることになります。これを「特別受益の持戻し」といいます。
したがって、配偶者に生前贈与した分だけ、相続が発生した際の配偶者の相続分が減ってしまうことになります。
ただし、民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産を遺贈又は贈与したときは、「特別受益の持戻しを免除」する意思表示があったものと推定されることになりました(民法第903条4項)。
つまり、現在居住している自宅を配偶者に贈与したとしても相続が発生した際の相続分が減ることなく本来の相続分で配偶者が遺産を取得することができます。
生命保険の受取人を配偶者にする
生命保険に加入している方は多いかと思います。そして、生命保険の受取人を配偶者にしておくことも相続に備える方法の一つになります。
生命保険金は、被保険者が亡くなったときに保険会社から受取人に支払われます。
この保険金の特徴としては、相続が発生したときの取扱いです。保険会社から支払われる保険金は、亡くなった人の財産(遺産)とはみなされず、受取人として指定された人の固有財産となります。
つまり、他の相続人と遺産分割協議せずに、保険会社から保険金を受け取ることができます。
また、配偶者の方が他の相続人から遺留分を主張されたときに、その支払いに備えるための金銭として受け取った保険金を利用することができます。
加えて生命保険金は相続税の課税対象になりますが、相続税の非課税枠が設けられているので、相続税の節税や納税対策としても利用することができます。
既に、生命保険に加入している方でも受取人が配偶者となっているか確認しておくことが大切です。
- 「⽣命保険(死亡保険⾦)の⼿続き」
- 「遺留分とは」
まとめ
記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
お子様がいないご夫婦でも、配偶者が亡くなったときに、残された配偶者が全ての遺産を相続できるわけではありません。義理の両親、兄弟姉妹が相続人として加わり、配偶者と協力しながら相続手続きを進めていくことになります。
ただし、お互いに友好な関係とまでは言えないが、もともとの関係が疎遠の場合、相続をきっかけに配偶者と義理の両親・兄弟姉妹間で相続トラブルになることがあります。
こういった相続が発生した時のトラブルに備えて、遺言書を作成するなど事前に備えておくことが大切になります。
遺言書の作成を含めて対策方法が分からない方や将来の相続に不安をお持ちの方は、司法書士等の専門家に、一度はご相談してみてはいかがでしょうか。
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