記事をご覧いただき、ありがとうございます。港区の司法書士山田武史です。
相続放棄をしたとしても直ぐに遺産との関係がなくなるわけではありません。
相続人が相続放棄した後は、遺産についての管理責任が残ります。せっかく、相続放棄をしても管理責任があると聞くと戸惑う方もおられるかと思います。
そこで、本記事では、令和5年4月1日に改正された民法を踏まえて、相続人が相続放棄した後の遺産の管理責任について解説いたします。
このページの目次
「相続放棄」とは
まず、前提として相続放棄とは、どんな手続きであるのかを簡単にご説明します。
相続放棄とは、故人の財産を引き継ぐ権利を相続人自らが手放す法律上の手続きのことです。
相続人が故人から引き継ぐ財産には、不動産や預金だけではなく、故人が生前に借金をしていた場合には、その借金も相続人が引き継ぐことになります。
そして、故人の借金を引き継ぎたくない場合は、相続放棄をすることで借金を引き継ぐこともなくなります。
詳しくは、「相続放棄とは」をご覧ください
相続放棄した後の遺産の行方
特定の相続人が相続放棄をした後は、他の相続人に遺産を相続する権利が発生します。
もっとも、相続人になれる人には、法律上の決まりがあります。
【法定相続人の順位】
- 第1順位 (故人の)子・孫など(直系卑属)
- 第2順位 (故人の)父母・祖父母(直系尊属)
- 第3順位 (故人の)兄弟姉妹
上記は、法律に定められた相続人になれる人の順位(順番)になります。
相続放棄との関係では、故人の子(又は孫)である第1順位の相続人全員が相続放棄をすると第2順位の相続人である故人の父母などに相続権が発生します。そして、第2順位の父母(祖父母など)全員が相続放棄をすると、第3順位の兄弟姉妹に相続権が発生します。
なお、故人の配偶者は、上記の順位に応じた相続人と共に相続権を有しますが、一度相続放棄した後は、その時点で相続人ではなくなります。
相続放棄した後の管理責任
相続放棄をした後は、直ぐに故人の遺産と関係がなくなるわけではありません。
故人が残した遺産に借金以外の建物や土地などが存在していた場合は、誰かが管理する必要があります。
そこで、法律上は相続放棄した相続人は、その放棄をした後でも一定の遺産については管理責任を負うとしています。
民法第940条 (相続の放棄をした者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
管理責任があるのは、現に占有している遺産について
管理責任の対象になるのは、相続放棄した相続人が現に占有している遺産についてです。
占有とは、「物を事実上、支配している」ことをいいます。
例えば、故人が所有している建物に、相続放棄した相続人が居住している場合は、相続財産を占有している状態といえます。したがって、その遺産である建物について管理責任を負うことになります。反対に、相続放棄した相続人自身が一切関与・支配していない財産については、管理責任を負いません。
遺産を管理する方法
占有している相続財産の管理方法は、「自己の財産と同一の注意義務をもって」とされています。具体的には、相続放棄した相続人の後に続く、他の相続人のために遺産を滅失又は損傷させないように保存(保管)するなど、必要最小限度の管理方法で良いとされています。
管理責任は、他の相続人に対して負う
なお、この管理責任は相続放棄することにより、新たに相続人となる他の相続人若しくは、後述する相続財産清算人に対して負うことになります。
相続放棄した後の遺産の管理責任は、対外的にも負うこともあります。
例えば、相続放棄した相続人が被相続人の家屋(遺産)に居住(占有)している場合に、その家屋が倒壊等によって、近隣住民等の第三者に被害を及ぼした場合、損害賠償を請求される可能性があります(民法第717条)。この管理責任は、他の相続人に対して負う責任とは別の規定になります。つまり、相続放棄した相続人は、第三者に対しても遺産の管理責任を負うことになるため、相続放棄した後は建物(被相続人の遺産)から退去するなどして、他の相続人や相続財産清算人に遺産の管理を引き継いでもらうようにしましょう。
民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
いつまで管理する必要があるのか
相続放棄した相続人による遺産の管理は、いつまで続ければ良いのかケース別にご説明します。
他に相続人がいる
先にも述べたとおり、相続放棄した後は、他の相続人に相続権が発生します。したがって、相続放棄をしていない他の相続人に連絡して占有している故人の遺産を引き渡すことで管理責任は終了します。
他に相続人がいない
相続人が1人しかおらず、若しくは後順位の相続人も含めて相続人全員が相続放棄をした場合は、法律上の相続人が存在しなくなります。
こういった場合は、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選任してもらい、その清算人に故人の遺産を引き渡すことで管理責任を免れることになります。
相続人全員が相続放棄をした場合やそもそも相続人が存在しない場合は、家庭裁判所から相続財産清算人を選任してもらいます。
相続財産清算人は、故人が負担していた借金を返済するなどの清算手続きを行い、残った財産を国庫に帰属させる手続きを行います。
相続財産清算人には、弁護士や司法書士などの専門家が選任される傾向にあり、家庭裁判所に選任申立する際は、その専門家に支払う報酬や遺産の管理経費として、予納金(数十万程)の支払いが必要になります。
まとめ
記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
相続放棄の手続きでもっとも問題になるのが、相続放棄をすることで他に相続する人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合に、誰が遺産を管理するのかです。
もっともシンプルな解決方法は、家庭裁判所から相続財産清算人を選任してもらうことですが、申立ての際に予納金を納める必要があり、傾向として高額になることがあります。
ただし、ここまで説明したとおり、そのまま放置することはせず、管理責任の負担から確実に開放されるためにも他の相続人や相続財産清算人を選任して遺産の管理を引き継いでもらうようにしましょう。
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